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 一瞬泣くか?と思わせるような気配をさせたけれども、馬車の揺れのせいかきょと とした顔をして、透明感のある綺麗な瞳をオレに向けた。  潤んで水の幕が張ると不思議と銀にも見えるその瞳に見つめられると、たまらないほど幸せな気分にしてくれる。 「……黒、なのか」 「  っ」  クラドの突然の言葉に飛び上がりそうになったのは、それだけロカシ達に長剣を向けた姿が恐ろしかったからだ。オレがあの瞬間に「帰る」と叫ばなければ、きっとクラドは躊躇なく腕を振り下ろしていたに違いない。  かすが兄さんと共にゴトゥス山脈で魔物達と渡り合ったクラドの武勇伝は、テリオドス領にまで届いてくるほどのものだったから、あの場にいた者すべてを切り捨てるのは簡単だっただろう。  オレの記憶の中の彼は……確かに険しい顔つきで恐ろしげに見えるけれど、決してそんなことをする人ではなかった。  小さな子供に対しても鬱陶しがらずに根気強く向かい合える、そんな人だったはずなのに…… 「黒い瞳なのか」 「あ……はい、黒 です」  「そうか」とだけ返して、クラドは視線を馬車の外へと向けてしまった。  何か追及の言葉が来るかと身構えたけれど、馬車の外を見る目はこちらを見なかったし、引き結ばれた唇は動かない。気持ちをそのまま表したような不穏な空模様になり始めた空を、険しい顔で睨んでいるだけだ。  その横顔を盗み見る。  一年前までは毎日見ていた横顔とは少し違っていて……  表情はより険しくなって、顔立ちは鋭利になった。  短かった髪は伸びて、ざっくりと首の後ろでくくられていた。  体はずいぶんとがっしりとして、それから小さな傷跡があちこちに残っていて……一年前とはずいぶん印象が違って見える。  でも、遠くを見ると景色を反射して鏡のように見える瞳は変わってない、かな。 「  ────っ」  チカッと目の端で、曇天を切り裂くように走った稲光にはっと顔を上げた。元の世界とは違う、高い建物のない森の上空は遮る物が一つもなくて、一瞬で駆け抜けていく光の帯を隠す物は何もなかった。  煌めく尾を靡かせながら飛んで行く龍のようだ と思うと、不思議と怖さを感じることはないから、光に促されるように馬車の窓の方へと顔を向ける。  朝はびっくりするくらい綺麗な朝日を見せていて、今日も一日晴れだろうと思っていたのに……  遠くで小さくゴロゴロ と腹に響くような音も聞こえ始めていて、この馬車もやがてその音が連れてくる雨に飲み込まれるんだろうなって思うと、少し……息苦しさを覚える。

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