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柔らかく波打つ髪の下から伸びる項も同じ色に染まっていて、ひけらかされない秘めるような恥じらいが匂い立つようだ。
たった一年、会わない間に色気が増したように思う。
それが誰の手によって磨かれたものなのかを考えそうになって、慌てて首を振って皺が深くなりそうな眉間に拳を当てた。
「……とにかく埃を落とすといい、すぐに湯を用意すると言っていた」
「…………」
「赤ん坊から先に 」
「ヒロです」
やけに強い語調だったためか思わず言葉が途切れる。
何事かとそちらに向き直ると、腕の中の赤ん坊にじっと視線をやったままもう一度「ヒロと言います」と告げ、長い睫毛に縁どられた美しい瞳を俺に向けた。
けれど、それは微笑まない。
かつては俺を見る度に少しはにかむように細められて弧を描き、眩しそうに様子を窺ってきていたのに。
こちらからは、あの狐を思い出させる赤い三角耳だけが見えて……
その子の名前を、俺に呼べと言いたいのだろうか。
「……そうか。わかった」
大人気ない行為だとは十分理解している。けれどどうしても、はるひの腕の中でぬくぬくと安穏に寝息を立てている小さな存在の名前を呼ぶ気にはなれなかった。
悪くない名前だと思うし、響きも好ましいと思う。
けれど、……だ。
苦い胸中にこれ以上小さな赤い耳を見ていられずに目を逸らした。
「すみません……」
俺の心を察したのか、はるひは続けたそうな言葉を飲み込んでから「お湯を使ってきます」と言って、初めて腕の中から赤ん坊を降ろした。
力が強いのか、手足をばたつかせるとはるひの肌を叩くペチン と言う音がその度に聞こえて、何か手助けをするべきなのだろうかとちらりと視線をやる。
猫じゃらしのような指ほどの細い赤色の尻尾が見え、それが勢いよく振られている。そのせいか動いた空気に乗って湯上がりの湿気りと赤ん坊独特の甘い体臭と……
「花の匂いか?」
そう問いかけると大袈裟なほどにはるひの肩が跳ねて、焦るように何度も頷き返してきた。
「香油か?」
「そんな高価なものじゃ……」
香油 が、高価……か。
城で暮らしていればそんなことを気にすることもなかっただろうに。
「ラフィオの成分は肌にいいから、染料を取る時に出た黄色い汁をお湯に入れてるだけで。お陰ですごくいい匂いがしますよね」
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