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「巫女様っ!ちが  っ私はっ」  宥めようと伸ばした手も振り払われて取り付く島もない状態だ。  王に嫁いだ巫女が未だに子を儲けていないのは不仲だからだと言う噂がまことしやかに流れてはいるが、かすがの態度を見るにまったくのでたらめと言うわけでもなさそうだった。  主に噂を流しているのは娘を王に嫁がせそびれた貴族連中だろうが、かすがの耳に入るほどに騒ぎ立て始めているらしい。  もっとも、兄はそんな連中の言葉に耳を貸す気などさらさらないだろうが。 「そのことについて王は何も 」 「────っ!やっぱりクルオスなんだ!」 「は⁉ っ違います!話をっ  」  バシ っと手を叩かれてしまって怯むと、作り物のようにしか見えなかった顔がくしゃくしゃと歪んで赤みが差し、少しだけ人間味を取り戻して俺に心の内を告げる。  何かに、苦悩している と。  苦痛を感じている と。  人としての何かを取り戻したかすがははるひによく似ていて、不安そうなその表情を和らげてやりたくて目の前に膝をついた。 「王は、子の有無を問題にされるほど狭量ではありません」 「  っ」  銀の虹彩が揺らめいて、俯けば雫が零れ落ちるのではと焦ったところで、かすがはぐっと嗚咽を堪えるように顔を上げ、銀の瞳に青空を映して背筋を伸ばす。  そうすれば、いつも通りの銀で作られた精巧な人形のようで、はるひとは似ているところを探すことが困難になった。  深く息を吸い込んだのかいつもより大きく上下する胸板だけが、先程の激情の名残を見せてはいるが、それ以外はいつも通りだ。 「話は、もうこれでいいのかな」  問い掛ける形でない問いかけはかすがの中でもうすでに話すことは何もないと決まっていることを教えてくれたが、俺にはもう一つどうしても教えてもらいたいことがあった。  踵を返そうとするかすがにさっと手を伸ばし、少しでも力の込め具合を間違えれば折れてしまうんじゃないかと思える手を握る。 「もう一つだけ、  お願いがあります」  無作法な俺にかすがは眉根を寄せたけれど、その手を振り払うことはなかった。 「 あー  んっ」  思考を途切れさせる赤ん坊の泣き声にはっと頬杖から顔を上げると、赤ん坊用のベッドの柵の間からちかりと光がきらめいて見えた。  闇の中で光る獣の瞳と視線が合い、一瞬泣き声を無視しようとした俺を縫い付ける。

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