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「はるひ、大事にしたいと言っただろう?」 「んっ」 「触れるだけで許してくれ」  頬をぺろりと舐められてあやすように抱きしめられてしまうと、自分の我儘のようでこくりと頷き返すしかできない。  互いの間に隙間を産まないようにきつく腕を回されて、オレの焦れた胸中をわかっているようにゆっくりと手が腰を這い、その行きつく先がどこか……  柔くノックされると応えるようにひくりとソコが攣る。  眩暈がしそうなほど体中に血が駆け巡って、縋りつくために力を込めた腕が震えてしまって。 「安心しろ、無体なことはしない」  慰めるようなクラドの囁きに、小さな子供のようにこくりと首を振る。なのにもう一度、窺うように銀の光を反射する瞳でじっと顔を覗き込んできた。 「痛みは?」  ぬとぬとと溢れるほど濡れて音を立てるソコが痛いはずもなく……入り口をゆっくりと擦り続ける動きに涙が溢れそうになる。 「ない ……ないです」 「まったく?」  はい と即答したら自分がどれだけ触れて欲しかったかをばらしてしまいそうで、曖昧に視線を動かす。 「少しだけ、我慢してくれ」  宣言されてから行われる行為がどれだけ無体なものかと息を詰めていると、クラドの指先がわずかに動いて尻たぶを引っ張った。  つねるわけでもなんでもない、優しく柔らかに指先が最奥に近い皮膚を押さえるように引っ張り……こぽりと溢れ出すとろとろとした愛液は、まるでお預けを食らって溢れる涎のようだ。 「 っ、ん……ひ、拡げないで くださ  」  きっとクラドの指を汚してしまっている。  それでなくとも張り詰めた前から流れ出た粘液で濡らしているのだから、これ以上クラドの剣を握る手を汚すのは忍びなかった。 「ぁ……指、だめ …… ぅんっ」  大きくたくましい手はオレが汚していいものではなく、この聖シルル王国を守るための大事な手なんだって思い出し、きつく首を振って離れがたい手を押し退ける。  尊い手なのだから……と、抵抗しようとしたのにオレの動きはなんの結果も残せずに終わってしまった。 「  きゃ、あっ」  あげてしまった甲高い声を慌ててお互いの手で抑え込み、傍らのベッドに寝かせたヒロが目覚めていないかを窺う……  至近距離で見つめたクラドの瞳に自分がはっきりと映っているのを見て、今目の前の騎士はオレのことだけを見つめてくれているんだと、嬉しくなる。  跳ねる心臓の音は大きすぎて息苦しくさせるほどだ。  お互いの睫毛が当たってしまうのでは という距離で見つめ合い……  クラドの鼻先がちょんちょんと促すようにオレの鼻先をつつく。  まるで小さな子犬の挨拶だ と思った瞬間、しっとりとした肉厚な唇がオレの唇へと重なる。  今でも隙間なく抱きしめ合っているのに、触れた唇はさらにぴったりと寄り添い合っていて、一つになるというのはこういったことなんだと鼓動の早い胸で思う。 「指はよくないんだな?」 「  んっ」  改めて聞かれて頷いて返す。  大事な手だから と言葉を繋ごうとしたが、散々高められて声を零し続けた喉はカラカラですぐに喋ることができなかった。  クラドは鋭い目を柔らかく細めて、すべて承知しているという感情を滲ませたまま、さっと頭を垂れる。 「ひゃ ⁉」  止める間もなかった。    自分の下半身にぴったりと沿わされたクラドの髪の感触と、頬の温もり……それから、ぬるつく軟体動物のような舌がそろりとアナの縁に触れた。  舌は舐めるためのものだったけれど、そんな場所に触れるためのものじゃない。  さっと血の気が引く感覚がして、手を汚す なんて比じゃないことをしでかしてしまった と、オレは怖くて体を硬くした。 「指よりは柔らかい。器用かどうかはわからんがな」  苦い笑いをふくませたような声が聞こえ、その後つつ……と湿った軌跡が足の間を這う。  指同様、焦らすように周りを丹念に舐めあげるのに、肝心の部分には一切ふれない。けれど舌の動きは確実にアナから溢れ出したものを舐めとっている。 「ぁ ……あ……っ、クラ ド さま……こんっ、こんなことは  っ」  不浄な部分を岸に舐めさせている背徳感に感じるどころか頭の中はどんどん混乱していく。  身をねじって逃げようとしたけれど、クラドの両手はそれを許してはくれない。  逆に力を込めて引っ張られ、入り口をくすぐるように舌が細かく動いて愛液を舐めとり……丹念に丹念に、決して乱暴をしないように吐精するまでゆっくりと執拗に舌は動き続けた。  再び降り出したらしい雨の音を聞きながら気怠い体を動かそうとすると、後ろから伸びていた手が慌てるようにオレの体を抱え直し、それから首筋の匂いを嗅いでから安心したように寝息を立て始める。  名残を留めた熱い腕に抱き締められて、一瞬このまま眠ってしまえば と思いもした。  けれど……  今度こそ……とそろりと腕から抜け出し、ベッドから降りようとすると「どうした?」と声がかかった。はっきりした声音ではなく、怠さと眠さの混じったそれは夢うつつからの言葉のようにも聞こえる。 「ヒロの、おむつを替えなきゃと思って……」 「おむつ……」  呟きはしたもののそれが何か理解するのに時間を要しているような、そんな時間が過ぎてベッドの上の影がもそもそと動き出す。 「  手伝おう」 「だ、大丈夫です」 「いや、……そうすれば少しでも早く寝床に戻ってくるだろう?」  いつものきびきびとした動きからは考えられないほどクラドの動きはゆっくりで、達したために疲れが出ているのが見て取れた。  ベッドの縁に戻って、さっきまでしがみついていた広い肩を押し返す。 「すぐにすみますから、休んでてください。疲れているんですから、ゆっくり休まないと……」 「…………そう だな、  」  眠気を振り切れなかったのかクラドはオレの促しのままに再び体を横たえる。けれど、その手はオレの手を掴んだままだった。  オレの体を満遍なく撫で上げ、高みに押し上げたその手が、離れ難いとでも言いたそうに手を握り続けている。  手を振り払うことに、罪悪感が生まれるなんて知らなかった。 「こんなに 心安らかに横になれたのは久しぶり だ  、ずっと、  探し て  」  言葉の最後が寝息に溶ける。  オレの手を握りながら眠ったんだと言う事実がくすぐったくて、嬉しくて溢れた涙が零れそうになって慌てて服の袖でそれを拭う。

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