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 さっと辺りを見渡しても木々がどこまでも続いてすべての方向が同じに見える。  ────パキ  また傍で鳴った音に弾かれるようにしてとにかくそこから離れなければと走り出す。  最悪オレはどうなってもいい、でもヒロだけは……  森の切れ目を見つけた瞬間、そちらに飛び込めばもう追われることがないんだとどうしてだか思い込んでいて、雨が頭を打った瞬間は嬉しさで笑いさえ零れそうだったのに、目の前に現れたモノを見た瞬間にすべてあの追いかけてきていた気配がここに来させたかったんだって理解した。  雨粒を受けて、幾つも幾つも波紋を作るそれは池と言うよりもこの雨で現れた沢のようにも見える。  そこに伏せる一人の…… 「   っ」  雨の降る中で倒れていたなら駆け寄って介抱もしたかもしれない。けれど目の前の人はそう言うものではなかった。  体は……クラドよりも一回り小さいくらい?  夜の森の木々と同じ色をした……オレの物と明らかに質の違う、粘液を纏った長い頭髪、肌の色も汚れていてよくわからなかったけれどやっぱりオレの肌とは色が違いすぎる。  曇天のような、鈍色……  再び背後からパキ と音がして、跳び上がるようにして後ろを見るけれど、そこには木々が茂る森があるだけだ。 「…………」  ここは、森の中にたまたま開けただけの場所のようで、左右を見ても沢の向こうに目を凝らしても逃げ出せそうな場所はない。  来た道を と動こうとすると、またパキ と音がして……オレをここに留めたいのがよくわかった。  何 と問いかけることができたら、少しはこの恐怖もなかったのかもしれないけれど、何かわからない気配と人の形を取りながら明らかに……クラド達獣人よりもはっきりと人ではないとわかる存在に挟まれて、頭の中は真っ白だ。  世の中には、瘴気と魔物がいる。  人を襲い、喰らい、辱めるのだと。  その話は幾度も聞いたし、かすが兄さんがそれを浄化するためにこちらに呼ばれたことも知っている。  けれど、今まで遭遇したことがなかったから…… 「 っ  どうし よ  」  かすが兄さんがゴトゥス山脈を浄化して、もういなくなったのだと、思っていたのに。 「オレ……喰われ……」  ぶるりと体が震えて膝をつきそうになるのを寸でで堪えると、腕の中のヒロを抱え直して何度も首を振った。  オレがここで諦めてしまえば、この腕の中のヒロはどうなってしまうんだろう?  いくら考えてもわかりきった答えしか出ないのに、答えを出すのが恐ろしくて……  幸か不幸か、沢で倒れている何かはこの雨に打たれてもぴくりとも動かない、目を凝らして呼吸をしているのか確認してみたけれど……その体は上下には動いてはいない。

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