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「 ────ぃ゛い゛ ! ! !! 」
焼かれて転がるのか炎が映す影が揺れる。
「閣下!このまま押し切れます!」
「……わかった、火が弱まり次第剣で切り刻め」
心から吐き出したような安堵の溜息と共に絞り出された返事はやはり恐ろしく、腕の中のヒロをぎゅっと力を込めて抱き締めた。
オレには、これがどう言ったものかはわからない、けれど、クラドや騎士達の手慣れた動きを見るとあの伏していたモノが瘴気や魔物と呼ばれる存在で間違いはないようだ。
小さくなっていく悲鳴に、耳を覆って蹲る。
この世界で生きている人々を脅かす敵だ と言われていたから、オレはなぜだか向こうの世界のテレビで見た悪役のような、棘がいっぱいあったりドラゴンみたいな形だったりした怪物を想像していた。
けれど、間近で見たアレはあまりにも人の形を取っていて……
オレはこの一年、クラドが向かい合って来た世界の澱の一片に後味の悪い感情を抱いてしまった。
震えが止まらないオレに対して、クラドは何も言わなかった。
ただ身を清め、体中の傷の手当てをして顔を歪めただけで、どうして宿から逃げたのかも聞かなかったし、怒ることもない。
「瘴気に触れた後は熱が出る……寒くなったら教えてくれ」
あの細長い黒い触手が巻き付いた部分はシミが着いたように黒ずんていて、痣のように見えるそれはオレに森での記憶を思い起こさせた。
幸いなことに、ヒロにはほんの少しの怪我も黒いシミもなくて……
それだけが救いだった。
「さぁ、横になるといい」
「……でも 」
「明日からは宿屋には泊まらない、ゆっくり休めるのは今日だけだ」
固い声は再会した時のようで、勝手に出て行ったのはオレなのに突き放されたような気分になって俯く。
「 ご、ご、め んなさ 」
小さな子供ではないのだから、もっとはっきりと謝罪を告げなければと思うのに、途切れ途切れの子供のような言葉しかでなかった。
「……いや、お前にこんな危険なことをさせたのは俺なんだろう。謝るのは俺のほうだ」
視線はこちらを見ず、厳しい表情のまま窓の外を睨みつけているだけで、その言葉が本心なのかどうなのかすらわからない。
いっそのこと怒鳴り上げるとか、説教をしてくれたなら楽になれただろうに、クラドは話すことはないとでも言いたげに口を引き結んだままだった。
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