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「オレ……だから……」
「寝るんだ」
室内灯に銀色に瞳を光らせながらやっとこちらを向いた眼は厳しくて……
「騎士として誓おう。もう何もしないから、安心して眠るといい」
「な 」
ふる と寒気に体が震える。
「黒い痕が消えれば寒気も熱も治まるから 」
「違 っクラド様っ聞いて 」
オレの言葉を遮るように扉がノックされて、茶色い三角耳の美女がそっと顔を覗かせた。
耳と同色の長い髪をポニーテールにして騎士の制服に身を包む彼女は、女性の美しさだけでなく凛々しさも加わって、思わず目で追いたくなるような美しさだ。
黒いきらりと光る瞳をオレとクラドに向けて、申し訳なさそうに「閣下」とクラドに声をかけた。
「大変申し訳ございません。少々お話が」
「わかった。そちらに行く」
クラドがそう言うと彼女はほっとした表情をして、それからオレに向けてぺこりと頭を下げる。
「はるひ 宿の周りを巡回させている。だから、もう危ないことはしてくれるな」
逸らされてしまった視線はもうオレの方を見ず、逃げられない と言う宣言だけを残してクラドは部屋を出て行ってしまった。
クラドがいなくなって……急にひやりと感じられるようになった室内の空気に耐えられず、毛布を追加したベッドに体を横たえる。
小さな震えが止まらない手を見ると、軟膏を塗られた細かい傷がそこらかしこについていて、あの沢を這った時のことを思い出させる、そして前腕についた黒いシミは……
擦れば落ちないかと馬鹿なことを思って、袖の裾でそれを擦ってみるも痛みばかりが増して無駄なことだと思い知らされてしまう。
オレが、悪いのはわかっている。
オレが、逃げ出したから……
でも、
「 ヒロ」
そっと名前を呼ぶと、赤ん坊用のベッドの上で寝ているヒロの赤い耳がぴくんと反応を見せる。
「クラド様と結婚なんて……できないよね……」
同意かどうなのか、ヒロの耳がまた小さくピクピク と動いて見えた。
体を揺さぶる馬車の振動のお陰でいい加減体が痛かったけれど、昨夜クラドが言ったように食事のための休憩と馬を替える時以外は進みを止める気配がなかった。
馬車を囲むように騎士が数人、馬でぴったりとついてくる、その中にはクラドの姿もあって……彼はオレと一緒に馬車に乗るのを拒んだ。
その代わりに二人の……昨夜の女性騎士ラムスと森でオレに付き添ってくれた騎士ディアが乗っていた。
「大人しいですね」
ラムスはふふ と可愛らしい笑みを浮かべると、「撫でていいですか?」と断ってからヒロの小さい三角耳をそっと撫でる。
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