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ゴトゥス山脈で対峙した魔人はそこまですれば、やがて緩やかに砂へと還った。
消滅を見届けるために、念のためと持ち帰ったのだが……
「…………あの戦いの生き残りだから、強い個体なのか?」
巫女の力であの一帯は強制的に浄化されて、塵芥まとめてすべて消え去ったはずだ。
あの山からここまで、逃げ延びることができたのか?
もしくはここまで逃げてくる理由は?
あそこに、何かがあって、来たのか?
どんな目的でここまで来なくてはならなかったのか……
今の情報の量では幾ら考えても答えが出ないのはわかりきっているはずなのに、思わず考え込んでしまうのは鈍色のアレがはるひに執着していたからだ。
『これ゛、ごレ゛』
そう言って確かにアレははるひに向かって腕を伸ばそうとしていた。
「どうしてもあれが気に掛かる」
あの姿を見ていると、もしかしたらまたはるひを襲いに来るのでは、と言う懸念も残る。
馬車の中ではゆっくり休むこともできないだろうし体も辛いだろうが、治療とその身の安全のためにはるひには王宮に着くまで我慢してもらうしかない、流石に巫女の膝元にまでたどり着けば、魔人と言えども襲撃は難しいだろう。
例え俺が嫌悪対象で逃げ出したいのだとしても、今は優先させるべきことがある。
「………」
馬車の中から朗らかなラムスの笑い声が聞こえてきて、あの中は平和そうだと胸を撫で下ろすが、はるひのことを思うと素直にそれを受け入れることができない。
危険な夜に逃げ出さなければならないほど、俺から離れたいのだとは思わなかった。
────はるひは見つからなかったか、亡くなったと伝えてください
はるひが俺に残したメモは簡潔なだけに残酷だ。
自分を亡くなったとしてでも俺との婚姻を受け入れたくなかったとは、知りたくなかった事実だった。
王都へは残り半日と言う頃、突然馬車の窓が開いて鋭い声で俺を呼んだ。
「どうした!」
御者に馬車を停めるように指示を出すと緩やかな減速の後に馬車は停車し、中からディアが飛び出してくる。
「はるひ様の具合が芳しくありません!」
見た目にわかるほどの寒気を訴え始めたのは昨夜のことで、それに伴って熱が高くなり始めたの夜半を過ぎた頃だ、それまで具合が悪いのを押しても赤ん坊の世話は自分がしていたし、その腕から離すことはなかった。けれど今朝はそれも難しかったらしく、ラムスが赤ん坊の世話を焼いていた。
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