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「思ったより進行が早いようで……」 「子供を産んで体力が落ちていたんだろう」  本来なら体を休めるべき時期に働きに出たり、俺とのことで心労を重ねさせてしまったのも原因だろう。  覗き込んだ馬車の中で真っ青な顔をして毛布にくるまっている姿を見た時、心臓が潰されたかのような苦しさに襲われて自然と眉間に皺が寄るのを止められなかった。 「…………ハンネス、先行して巫女様に謁見の許可を取れ、はるひのことを伝えれば何を置いてもお会い頂けるはずだ」 「はっ」 「ラムス、お前は赤ん坊の世話をしろ、ディアはその補助を、後の者は馬車と共に来い」  絞り出すような声音だったせいか、ラムスが神妙な顔をして敬礼する、それに皆が続いたのを確認してから、毛布にくるまれたはるひを抱き上げる。  ……軽い、と思うのはそれだけ衰弱が進んでいるからだろう。 「閣下はどうされ   」  ラムスの言葉を遮るように馬車から飛び出ると、はるひを抱きかかえたまま馬へと飛び乗る。  毛布にくるまれているはずなのに氷を抱えたんじゃないかと錯覚させるくらいその体は冷えていて…… 「先にはるひを城へ連れて行く」 「またそんなっお一人でっ!」  非難めいたラムスの声を置き去りにして、馬の腹を足で押して走り出す。  腕の中の体が力なく振動に揺られて凭れかかってくると、首が仰け反って色を失った唇が薄く開いて何事かを呟いた。 「どうした?何を言っている?」 「  さ……」  伏せられたままの瞼の隙間から小さな水の玉が転がり落ちて、それと共に「ごめんなさい」と言う言葉が繰り返し零れ落ちていた。  時間をかけることもそうだが、直接馬上で揺られることがはるひの体力を削ることを考えなかったわけではなかった。  腕の中の体はどんどん冷たくなっていくだけでなく、小さく聞こえていた譫言がやがて途切れ途切れになって聞こえなくなっていたからだ。  けれど、微かでも呼吸音はしっかりと聞こえているし、励ましの言葉をかけるとひくりと体は反応してくれる。  王都に入りスピードを落とさざるを得ないかと覚悟していたが、ハンネスの先触れのためか城まで続く街道に兵士が立って人々に道を開けさせているのが見えた。生活のために迷惑を被る者もいるだろうに、申し訳ないとは思いつつもはるひの方が優先だった。  必要ならば幾らでも詫びればいい、俺が頭を下げて王都を騒がした責任が取れるのならば安いものだし、その責任を取って爵位降下も甘んじて受け入れよう。  ただただ、この腕の中の愛しい命が助かるのならば……  王宮入り口のハンネスを見つける前に、その傍らに立つ銀色の輝きが先に目に飛び込んできた。  激しく上下する視界の中でも鮮明に人を惹きつけるその容姿は、紛れもなく当代男巫女のかすがの姿だ。

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