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「…………ぼ、僕の世界では、親に立派な人間だって示して認めてもらったりするんだよ」
「立派な とは」
「家柄とか、学業とか、業績とか……」
家柄 で言うならば、かろうじでだが先王の子であると認められているし、問題はないと思いたい。学業も得意な方ではなかったが貴族子女が通過儀礼的に通う学院で問題のない成績を収めて卒業はした。
問題は業績 だ。
近衛騎士を経てはるひの護衛騎士となったわけだが、他の騎士からすれば近衛騎士の時点で随分な立場ではあるだろう。
けれど……
生まれついての血筋のために、そこに至るまでに忖度や融通がなかったと言えば嘘になる。
そう思ってしまうと自らの手で勝ち取ったものはちっぽけなもので、はるひとの婚姻を認めてもらうために差し出せるほどの栄誉はこの掌の中には何も見つからなかった。
「私は……」
言葉に詰まった俺を怪訝そうに二人が見てくる。
チリ と胸に痛みが走る。ここまでしておいて、認めてもらうことができないのか と、
「 ────巫女様、次の遠征にどうか私めもお供させてください」
そう言葉が出た。
ない武勲ならこれから作ればいいのだ と。
「何を言っているんだ?お前は王族なんだぞ?そんなことをする必要は 」
「申し訳ございません。けれど、遠征に参加し、巫女様にはるひを護れるだけの力があると示して見せます。そして武勲をたてて王に婚姻の許可を頂きたいのです」
不安そうなかすがの瞳が足元を見て思い悩むように揺れる。
「……それだけじゃ駄目だ」
「ほかに、何を?」
「きちんと約束してくれ、はるひを幸せにしてくれるって っあの子は っ僕が 僕のせいで っ」
ぐっと言葉が詰まったのか、細いかすがの体が揺れて兄にしがみつく。
「巫女様、クルオス王の騎士として誓います。生涯に渡りはるひを護り抜き、愛し、慈しみ、幸福の人生を共に歩むと」
白い衣に埋もれた顔は見ることは叶わなかったが、兄のすこぶる優し気な表情を見るに悲しんでいるだけではないのだとわかった。
はるひを護る と、確かに俺は二人に宣言したのに、結果がこの体たらくだ。
俺を睨みつけながら今にも涙を零しそうなかすがを慰めたくて、折れそうなほど細い肩を抱き締める。
「 すまない」
「……うぅん、ごめん、君も頑張ってくれたことはわかってるんだ。でも……どうしても、はるひの姿を見ると……」
ぐっと乱暴に目を擦ると、かすがは長い睫毛に小さな雫を留めたまま、横たわるはるひの傍らへと膝をつく。
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