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 故に、かすがに尋ねることにしたが…… 「け  ?あいさ   ?」  俺の言葉がいまいち要領を得なかったらしく、かすがは目を瞬かせながら小さく単語を繰り返す。 「場を改める前に言ってしまうのも無粋だとは思うのですが、どうか、はるひとの結婚を認めて……」 「切腹」 「は?」 「うちの世界では腹を切って誠意を示すんだよ」  低くなった声は、威嚇の色を含む。 「腹 ですか?」 「腹を切って内臓を投げつけるんだ」  ひゅ と腹の底が冷えるような感覚に全身に力が入る。  先々代の巫女と同じ国から来たためにしきたりにそう大きな隔たりはないと高を括っていたが、なんとも凄惨な挨拶の方法だと冷や汗が流れ落ちた。  よしんば腹を切ったとしよう、臓腑を投げつけてその後五体満足で生きて行けるのかは甚だ疑問だ。 「それは……」 「…………」  その目を覗き込んで表情を窺おうとするも、ガラス玉のような瞳は感情を読むのは難しかった。 「わかりました、それが作法ならば従います」  腹を切る?  どこからどこまでを?  内臓はどの部位を?  疑問は山積みだったが迷ってしまうと流石に怖気づいてしまう気がした。  巫女に会うために長剣の所持は許されなかったが、護り刀は正装の礼儀として腰に納めてある。  短剣を抜き、かすがに危険がないようにさっと後ろに下がった俺を見る目が大きく見開いて…… 「────止まれ」  腹に響く声に押さえつけられるように腕が止まった。  俺だけでなくかすがも驚いたように固まって、バラ垣の向こうから顔を覗かせた人物に視線をやる。 「陛下……」 「良い、ここは身内の話をする場だ」  畏まるな と言われて、俺は渋々短剣を鞘に戻して立ち上がった。  太く長い尾が自由に揺れて、さてどうしたものか とでも言いたげな雰囲気を醸し出す。 「まず、クラド」 「はい」 「お前は揶揄われたのだ」 「は  」  どっと心臓が脈打ち、あのタイミングで兄が止めてくれなかったら……と冷や汗が噴き出す。 「かすが」 「…………」 「許しては貰えまいか?よくよく知っているだろう?」 「だ  って……」  兄の前では人形然とした表情が崩れ去って、複雑な表情で唇を噛み締めるただの弟想いの姿を見せる。  そんなかすがを引き寄せて長い銀髪を指で梳いているのを見ると、一つの芸術作品のようで……  番になる羨ましさに拳を握る。 「では、どのようにすれば認めて頂けるのでしょうか?」 「みと  認める とか……は  」  今にも駄々っ子のように首を振りそうになったかすがを兄が宥める。長い尻尾で頬をくすぐり、抱き締め、頬を寄せてあやすように甘い言葉を囁くと、かすがの頬に赤みが差して俯いてしまった。

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