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 こうして抱き上げている分には大人しいが、少しでも降ろそうとすると火がついたように泣き出す。  はるひを探しているのだろうけれど、未だに体を起こすことができないのだから会わせるのは酷と言うものだろう。 「しばらくの辛抱だ。はるひはすぐに良くなる。大丈夫だ。すぐだ。いつも通りの笑顔を見せてくれる。大丈夫だ」  ふわふわとした髪質ははるひ譲りなのだろう、鼻先を埋めるようにして擦り寄るとくすぐったくて甘い匂いがする。  赤ん坊に言い聞かせている言葉は俺自身がそう信じたいからだ。  どんどん冷えて冷たくなっていく体温を思い出しかけて、腕の中の赤ん坊に縋りつくように力を込めて頬ずりをすると、黒い目が細まって「きゃあ」と小さな軽い声が漏れた。  嫌悪の声ではない。 「なんだ、気に入ったのか」  温かくて滑らかで触れると驚くくらい柔らかな頬に擦り寄ると、それに反応したのかけたけたと笑い声が上がる。  ああ、はるひと一緒の……  はるひの面影のある愛らしい笑い声に笑みが漏れる。 「屈託のない笑顔だ」  幼い頃のはるひの笑顔によく似ていた。愛らしく好ましく、宝物のように感じる笑顔だ。  しかし、だから……と知らず眉間に皺が寄った。  こんな風に幼い頃ならばいいだろう、無邪気な間は何も気にしないだろう。  けれど長じて実の親ではないとはっきりとわかる違い気づいたら?  父が違うと悪意のある噂にあの子が傷ついたら?  辺境伯がのうのうと祖父と名乗り出たら?  傷つくのは俺ではなくこの子だ。 「   っ」  思考が暴走したのを感じて慌てて首を振った。  きょとんとこちらを見上げる黒い瞳はなんの憂いも持っていない透明なそれだ。にっこりと笑われて同じ表情で返事をすると、また何事か言葉にならない声を上げてうとうととし始める。  とん とん と背中を叩きながら、はるひとおなじようにこの赤ん坊の……ヒロの人生の先にあるすべての憂いを払ってやりたいと思った。   ◇  ◇  ◇  熱が出る とクラドには言われてはいたが、別にあの触手に怪我をさせられたと言うわけではなかったし、腕に黒いシミが残りはしたけれどそれも時間経過で消えるものだと高を括っていた。  幼い頃にマジックで自分の体に落書きしてしまった時のように、洗って擦って……それでも落ちない部分はいつの間にか消える、そんな勝手な思い込みをしてしまっていて……  宿を出る時は少し寒いかな?程度だった。テリオドス領は冬でも暖炉が要らないくらい温暖な地域だったから、移動のせいで寒さを感じるようになったのかな 程度の悪寒だった。

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