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「実を言うと……貴族かな?とは思ってたんだ。薬を持ってたこともそうだけど、立ち居振る舞いとか、仕事をしたことなさそうな感じとか、本当に世慣れてない感じで危なっかしかったから」
最後はちょっとからかうように言われて……
そんなに世間知らずだったかと思い返してみるも、心当たりしか湧いてこなくて、つくづくロカシと出会えていなかったらオレはどうなっていたんだろうと怖くなった。
この国では、犯罪を犯した者が刑罰のために奴隷になる犯罪奴隷がいるだけだけれど、他国には普通に奴隷売買があると聞いたことがある。
その言葉の響きだけで、震えそうになりぎゅっとショールを握り締めた。
「それから どうしても聞いておきたい、と言うか、僕の踏ん切りをつけるためなんだけど……」
ロカシはそう言うと自分の口元に手を当ててヒソリと何事かを呟く。
侍女や護衛騎士に聞かれないようにとの配慮だろうけど、風が吹いたせいかオレにもその声は聞こえなくて、思わず身を乗り出した。
一際強い風が吹いて、ショールを煽りながらオレの黒髪を混ぜっ返す。
「わっ 」
きつく目を瞑ったオレの耳に、
「殿下でしょ?」
そう尋ねる声だけが届いた。
風は吹き止んだけれどそのせいでオレの癖っ毛はぐしゃぐしゃで……それを直す振りをしながら、小さくこくりと頷いて見せる。
「ぁ、あー…………もぅ、もーう!」
ヒロとよく似た赤い三角耳が忙しなく動く。
「これですっきりしたよ、ありが っ」
ほっとした表情を凍らせた瞬間、ロカシの赤い尾がぶわりと逆立った。
「 ずいぶんと楽しそうだ、友人との歓談は何よりも得難いひと時だな」
クラドに似た、響きのいい声。
けれど、こちらの方がもっと威圧的だ。
反射的に立ち上がって礼の態度を取ってしまうのは、声同様に纏う雰囲気の重々しさのためで、そろりとロカシの方を見ると顔を真っ青にして今にも震え出しそうに見える。
「た、太陽のごとき……クルオス・ケヴィア・リ・ミロク・シルル国王陛下にご挨拶申し上げます。私はテリオドス辺境伯テガ・テリオドス嫡子、ロカシ・テリオドスと申します……」
絞り出された声に、王は悠然と微笑み顔を上げるように促す。
「私の義弟が友を招いたと聞いて立ち寄っただけだ、畏まることはない」
「はっ恐縮です」
そう言うもロカシの下げた頭は上がらず、オレの視界の端で白と黒の太い尾が楽し気にうねうねと動くのが見て取れる。
「はるひ、久しぶりの友はどうだ?」
「楽しいひと時を過ごしております、これも王の心遣いのお陰でございます。感謝いたします」
そう返してロカシの服の裾を引っ張って顔を上げるように促すと、少し落ち着いたのかしっかりとした視線を王に向けた。
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