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「だからって……」
「それに言ったろ?君が僕を助けてくれた、だから僕は君のためになんでもするってコリン=ボサに誓ったんだから」
それだけが理由じゃないけど と呟かれて、久しぶりに感じる気恥ずかしさに今度はこちらが小さくなる番だ。
オレがロカシと出会ったのは、ロカシがテガの代理で出陣式に参列したすぐ後のことで、かすが兄さんによって王都周辺は瘴気が祓われてずいぶん安全になったと言われていた街道で瘴気に襲われて倒れていた時だった。
幸いオレが見つけた時には瘴気はすでにその場を離れていて、ただただ壊れた馬車と倒れた従者と、それから季節が冬に移ったせいで色彩のない世界にぽつりと咲いた花のようなロカシの姿で……
取り乱して悲鳴を上げているようだった馬の嘶きと、苦し気に呻く人達の声は今も鮮明に覚えている。
「君がいなかったら間違いなく死んでいた、瘴気に襲われていると知ったら普通はまず逃げるものだしね」
「だって……」
瘴気に対してそこまで知識がなかったためだ とは言いだしづらく、しかたなく「瘴気はもういなかったから」と答えた。
実際、オレが見た限りではあの場に瘴気はいなかったから、間違ってはいないはず。
「せっかく襲っておいて馬にも何もせずいなくなったって言うのは不思議だったけど……でも、その後に聖別された薬を持ってたのは本当に驚いた。けど、巫女様の身内なら合点がいったよ」
聖別は巫女だけが行える。
この国で聖別を行えるのは当代男巫女であるかすが兄さんだけで、幾らコリン=ボサの寵愛が深いとは言えたった一人で聖別を行える量には限りがあった。
だから、聖別された武器は貴重品だし、ましてや消耗品である水や薬はなかなか手に入らない代物でもある。
かすが兄さんに甘やかされていたオレはそんなことは知らなくて、手持ちの聖別された薬をすべて飲ませ、傷口を聖別された水で洗い と、ロカシ達を助けるために使ったのだった。薬一つで貴族用の上質な酒が一樽買えるとも聞くから、見ず知らずの人達にそれを使うオレの行動はずいぶんと太っ腹に映ったことだろう。
まさか、普段の飲み水が聖別されたものだなんて、思いもしなかったんだ。
その時のことを思い出したのか、ロカシはふふ と吹き出すように笑う。
「ロカシ」
「うん?」
「ごめんね……騙したとか、そう言うんじゃ 」
「そんなこと思ってないよ」
柔らかい笑みを浮かべながら紅茶を口元に運ぶロカシを見ていると、テリオドス領のあの小さなオレの家に戻ったような気になってくる。
こんな白い大理石でできたテーブルはなかったし、お茶も野草を使ったものだったけれども、それでも豊かだった。
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