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「会いたかった!」
「 」
侍女を目で追いかけ、そして並ぶ警護騎士を見てからロカシは少し肩を落として笑った。
「本日はお招きいただき誠にありがとうございます。はるひ様もご健勝のご様子、安堵いたしました。お体の具合が 」
「ま、待ってっ 」
そんな畏まった言葉遣いをされてしまうとむず痒く感じるよりも物悲しくなってしまって、慌ててその言葉を遮るけれど、侍女が小さく咳ばらいをしたのを聞いてぐっと言葉を飲み込んだ。
「…………テリオドス小辺境伯は私の友人で、ここは個人的な場です」
絞り出すようにそう言うと、侍女が軽く頭を下げて了承の意を伝えてくる。
「ごめんね、せっかく来てもらったのに……」
オレの言葉にロカシはちらりと回りの様子を窺ってから、意を決したように首を振った。
「会わせて貰えるとは思ってなかったから」
そう言うとロカシは緑の目を細めて眩しそうに照れ笑いを浮かべ、体を小さく縮こめる。
「巫女様の、御兄弟だったんだね」
「……うん」
「なのに、あんな生活をさせてたなんて恥ずかしいよ」
このまま消え入りたいとでも言うように俯いてしまったロカシの耳は、その心をそのまま映すようにぺたりと寝てしまっていた。
ロカシがあんな と言った言葉を否定したくて、何度も首を振って「違う」と返す。
「ロカシはすごくよくしてくれたよ!オレにとって、テリオドス領での生活は本当に楽しかったし、素敵な日々だったし、大切で、かけがえのない日々だった!楽しいことばかりで……」
「ふふ、楽しいって二回言った」
「だって、本当に楽しかったから……マテルは元気?」
「うん、はるひのことすごく気にしてた。ちゃんとご飯は食べてますか!ってさ」
「食べてるよ!」
「ふふ、じゃあそう伝えておくよ」
そう柔らかく微笑まれて、感情的になって声を荒げてしまったことに気づいて慌てて居住まいを正すと、いつものように耳をピン と張って少し真剣な顔を見せた。
「ヒロは元気? 石鹸と液、間に合ったかな?」
少し声を潜めるような問いかけに、自然とこちらも潜めるような声で「うん」と返す。
「よかった!絶対手持ちじゃ足りないと思ったんだ!」
ほっとした様子でロカシは紅茶に口をつけると、緊張が解けたようだった。
「そのっ 辺境伯は、反対したんじゃ……」
「…………そこは問題じゃないよ」
オレの身分を知ったとして、テガからしたらどこの馬の骨かもわからないのよりはマシと言う程度だと思う。ましてやあんな風に迎えに来たクラドを刺激するようなことが得策ではないと言うことは良くわかっているはずだ。
献上品を持ってきたことで、王族の逆鱗に触れる可能性もあるのだから……
「はるひ、うちは隣国との境界、国の要地だよ、例えクラド王弟殿下だとしてもそう簡単にどうにかできる所じゃない」
とん と胸を叩き、ロカシはにっこりと笑うけれど不安が無いはずはなかったわけで……
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