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「危ないだろう。これはガラスでできている」
「ぅ、あー……」
「そうだ、ガラスだ、割れると非常に怪我をしやすい物になる。傷口に破片が残ることもあるんだぞ?」
「あー ぁっあー……」
腹がいっぱいなせいかご機嫌で、俺がそう諭しても聞いているのか聞いていないのかよくわからない反応しかしてもらえず、む と口が曲がるのを感じる。
「これはきちんと覚えておかなくてはいけないことだ。お前も長じてはるひを護るのだろう?その際に傷が原因で後れを取るなんてことはあってはならない……待て、寝るな、げっぷをしろ」
俺の話を聞きながらうとうとし始めたヒロを縦に抱き上げ、その背中を優しく撫でてやる。
最初こそこれの意味がわからなかったが、吐き戻すことが少なくなったのを考えると、これは重要なことだった。
とんとん と優しく擦り上げるようにしてやっていると小さく「けぽ 」と音がして、それを合図に横抱きに変える。
後は寝るまでひたすら部屋の中を彷徨うだけなのだが、コンコン と響いたノック音にそれを中断されて思わず鼻に皺が寄ってしまう。
「 ────どうした、そんな怖い顔をして」
「いえ」
少し眠そうにしていた顔が、来客によって爛々としたものに変わってしまっているのに気づき、一瞬蹴り出してやろうかと兄を睨んだ。
「そこまで険しい顔をするならやはり乳母をつければいいじゃないか、エルなら口の堅い者を見つけてくるだろう?」
「乳母はいりません」
「育児ノイローゼになってないか?」
「ヒロとは和解しましたので大丈夫です」
「和解……?」
いきなり親と引き離され、馴染むもののほとんどない生活環境に放り込まれたからか、城に着いてから数日はなかなか眠らずに泣き続け、乳を飲んでは吐き、常に不機嫌と言う状態で、近頃やっと俺にも懐いてきたのか俺が相手だと落ち着いてくれるようになったのだった。
和解 の言葉が不思議だったのか、兄は「和解」と呟きながらソファーに座ってゆったりと尾を振った。
「殺風景だった部屋がずいぶんと雑多になって来たじゃないか」
そう言って面白そうに辺りを見渡す。
俺はこの部屋で過ごしているからそれを感じることはなかったが、なるほど、確かにいろいろとヒロの物が増えて部屋の中は城に帰り着いた時から比べると生活感がある。
けれどその方が人の部屋らしく見えて、俺はこちらの方を気に入っていた。
そこらかしこからこの腕の中の小さな生き物の匂いがすると言うのは、非常に楽しい。
ふわふわとしたはるひによく似た質の髪に鼻先を突っ込んで匂いを嗅ぐと、尾を振りたくなってしまうほどには楽しい。
「ところで御用でしょうか?こちらから伺いましたのに」
「いや、なに、エルから不穏な話をされたのでな。甥の顔を見るついでに寄ってみただけだ」
そうは言うも、兄はヒロの顔を見ようとはしていない。
ちらりと視線をやってからぱたん と大きく尾を振るだけだった。
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