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「興味は湧きませんか?」
「 」
ぱたん と面倒そうに大きく振られた尾が返事だ。
「そんなことより、お前が婚姻許可を取り下げたいと言っていると聞いたが?」
その言葉を聞くと胸の内がひやりとするような感覚に陥る。
けれど、兄の言葉に反論することなく頷いて見せ、ヒロが機嫌よくしているのを確認してから兄の前に膝をつく。
「お手を煩わせましたこと、大変申し訳なく……」
「そんな言葉はいい、どう言うことだ?あれほど俺をせっついて書かせた挙句、はるひのために王族ですらなくなったと言うのに」
憮然とした顔は納得していないと全面で言っている。
「ご報告した通り、……はるひが魔人と遭遇したのは森の中です、はるひは危険だと言うのに雨の真夜中に宿から逃げ出しました。…………その森を突き抜ければテリオドスへの近道となるそうです、はるひは……この子の、ヒロの父親の元に帰りたかったのだと思います」
こちらを一心に見上げる黒い瞳は美しく、一片の陰りもない。
「テリオドスの嫡子も、王族の不興を買うの承知でここまで追いかけてきました。それだけの覚悟を持つほど、あの二人には……いや、この三人には絆があるのでしょう」
「だが」
「…………会いたいのだと、泣かれてしまいました」
ふわふわとした髪に鼻先を埋める。
「俺でははるひを笑顔にすることができないようです」
俺が匂いを嗅ぐのがくすぐったいのか、ヒロはむずがるようにバタバタと暴れながらきゃあきゃあと可愛らしい声を上げた。
テガ・テリオドスにも認められず冷遇されていた、少なくとも俺にはそう見えたあの生活でも、それでもいいと言えるほどにロカシ・テリオドスのことを慕っているのだと、あの涙で痛感させられて……
『やはり、俺では駄目なのか』
呻くように漏らしてしまった言葉がすべてで、俺が俺自身に突き付けた現実だ。
「で?自分の婚姻許可を破棄してテリオドスの跡取りとの許可を出してくれと進言してくるのか?」
態度は穏やかではあったが口調はいつもより早口できつい感じを受ける。
明らかに不愉快さと怒りを含んだ声音に、思わず守るようにヒロを抱く手に力を込めた。
「はるひへの想いを飲み込むことができたら、そう しようと、思ってはいました」
バシッ と尾が不愉快さを示して鳴らされた。
その鋭さに怯えたのかヒロの瞳に雫が溜まり、光を反射して銀色に光って見える。慌てて立ち上がって揺すってやると、きょときょとと俺を見詰めてから涙を引っ込めたようでほっと胸を撫で下ろす。
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