126 / 304

2−1

 腕の中のヒロが歯固めを吐き出したのをクラドがさっと受け止める。  手慣れてる って思うのは、散々哺乳瓶をヒロが投げたせい。  哺乳瓶以外にも最近は目につく物を掴んでは放り投げるって言う行動が楽しくて仕方がないせいか、それとも物を投げると大人があわあわして慌てるのが面白いからかのどちらかだ。  空中で受け止めはしたものの、歯固めに汚れがないかを確認してからまた再びヒロの手に握らせる。 「こんな……場所にいらっしゃるんですね」 「ああ、のどかなところと言うのがミロク様のご希望だったらしい」  王位を退いた王は王城の一角かもしくは瀟洒な自領に引っ込んだりするらしいのだけれど、先王は妻であり先々代巫女のミロク様と共に王都近郊ののどか過ぎる場所に居を移したのだそうだ。  のどか とは、だいぶオブラートに包んだ言い方だと思う。  実際、馬車で近くまでは来たけれど、そこから歩く……と言われてからだいぶ歩いた。けれどまだ先に道は続いているようだったし、クラドももう少しだから と繰り返している。  ────今日、オレ達がここへ来たのはクラドの両親に結婚の報告と孫の顔を見せるためだった。  ここには先王だけでなく、ミロク様と共にこちらに移ったクラドの母親であるロニフが住んでいる。  だからここに来れば一度に二人に出会えるのだけれど……正妻であるミロクと、その護衛騎士であったのにクラドを産んだロニフが今も一緒に生活していると言うことが、オレにはちょっと理解できなくて、どう言う気持ちで三人に会えばいいのか未だにわからず、そのせいか今朝も碌に食事が喉を通らなかった。 「…………」  クラドはその状況をどう思っているのかな?と思って、ちら とを見上げてみるとその横顔はいつになく真剣に前を向いている。  小さな傷のある頬が、奥歯を噛み締めたせいかぎゅっと動くのが見えて、その精悍さにちょっと顔が赤くなるのを感じた。  いつ見ても、落ち着いていて格好よくて、素敵で、未だにどうしてオレがクラドと結婚できたのかよくわからなくなる時もあるくらいなんだけど、不安そうにしていたらすぐに気づいてくれて……  だからオレもクラドに何かあった時はすぐに気づいてあげたくて、よく見るようにしてるんだけど…… 「…………」  顔を見ていた視線を腰の辺りに下げる。  黒いふさふさした尾は、いつも行儀正しくしているのだけれど……  視線の先の尾は、今にも股に挟まりたがっているかのように太腿にぴったりと貼り付いていた。 「クラド様?」 「なんだ?」  視線を前に向けたままそう答えるクラドの耳は……心なしかってほどじゃないほどに、ぺたりと寝てしまっている。

ともだちにシェアしよう!