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2−2

「あの、  」 「なんだ」  道を行くにつれて顔色も悪くなっているような気がしてしまって、思わず立ち止まって「帰りましょう」って言葉をその背中に投げかけた。  そうするとやって歩みが止まって、そろりと顔がこちらを向く。 「   」  顔色的にはそうしようって返事をしたいんだろうなって思えたけれど、クラドは緩く首を振った。  退位したとは言えこの国の中心だった王と巫女に謁見を求めて、明確な理由もなくそれを中止にするなんて出来ないのは良くわかる。  けれど……尋常じゃない様子に不安になってヒロを抱く手にぎゅっと力を込めた。 「すまない、俺の態度が不安にさせているんだな」  カチャ と腰に下げた長剣を揺らしながらクラドはオレの傍に戻り、両手でぎゅっとオレ達を抱き締める。 「はるひ、これから怖い物を見るかもしれないが、二人には絶対に危害は及ばない、それだけはわかっていてくれ」 「?」  そう言うならきちんと一から十まで話せばいいのに、クラドはまだ反省していないらしい……と思ってしまうのは、オレがだいぶ図太くなったからかもしれない。  けれど煙水晶のような瞳があまりにも真摯にオレを見詰めるから、これ以上問い詰めることができずにそのまま頷いた。  手入れのされた林を抜けて少し開けた小高い丘に出ると、なだらかに下がっていった先に建築中の家が見える。  すべてが手作りで作られているらしいその家は、テリオドス領で住んでいたオレの家を少し大きくしたくらいのサイズで、こちらの世界ではだいぶコンパクトなサイズだ。  大工らしい何人かがその傍らで、大きな荒い声を出して作業をしているのを横目に見ながら坂道を下ろうとした瞬間、さっと風が吹いた。  いや、正確には、何かにクラドが吹き飛ばされて叢の中に吹き飛んだ。 「  ────っ⁉︎」  声を上げる間もなく黒い尾が草の中に消えていく。 「クラド様っ!」  襲われた?  盗賊⁉︎  瘴気⁉︎  最悪の事態が脳裏に過り、とっさにヒロを抱き締めてしゃがみ込んだオレの傍らに、ふわりとしたものが広がる。 「  ────当代巫女かすが様のご令弟、はるひ様でございますね」  目の前で翻ったのは……深い紫色のスカートだった。 「あ の、   」  聖シルル王国では珍しいコルセットが必要な形のドレスを翻す女性は、凛とした立ち姿に黒い耳と尾が印象的で、クラドとよく似た煙水晶の瞳をしていた。  尋ねなくとも、この女性が誰なのかは一目瞭然だ。

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