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「ご挨拶が遅れました、私はロニフ・バトラクスと申します」  優雅なお辞儀をしているのにその腰には不釣り合いなレイピアが携えられていて、結わえられた黒い髪が風に靡く度にその表面をくすぐるように撫ぜている。 「は はるひ です」 「伺っております」  微動だにしないその表情に怯みそうになって、でも第一印象が……と言う言葉を思い出してしゃんと立ち上がって頭を下げた。 「こちらこそ、もっと早くにご挨拶するべきでした、クラド様と   ────クラド様はっ⁉︎」  名前を呼んではっとクラドの吹き飛んだ方を見ると、草叢からガチャン と長剣の音が響き、それを支えにクラドがふらふらと体を起こす。  せっかく両親に会いに行くのだからと整えた衣装が草に塗れ、梳かした髪も草に引っ張られたのかぼさぼさに乱れてしまっている。  そして……杖代わりにした長剣の鞘の一部が何かに殴られたかのようにへしゃげてしまっていた。 「怪我はっ⁉︎」 「大丈夫だ…………」  顔色と言い、寝てしまっている耳と言い、股に巻き込んでいる尻尾と言い、どこにも大丈夫な部分が見当たらなかったのだけれど、クラドはしゃんと顔を上げてそう返事をする。 「母上、お久しぶりです」 「クラド・リオプス・ラ・ロニフ閣下、ご無沙汰しております」  そう言うと、深く頭を下げて最上敬礼を取る。 「研鑽を積まれているようで何よりでございます、腕を上げられましたね」 「あ ありがとうございます」 「ヒロ様も、お会いできて光栄でございます」  そこでやっとクラドの耳がぴっと立ち上がり、ほんの少しだけ尻尾が股から顔を覗かせる。 「お疲れでしょう、ご案内いたします。どうぞこちらへ」  そう言うとロニフは「足元にお気をつけてください」と言って、ドレスを着ているとは思えないほどの滑らかな動きで丘を下って行く。  黄緑の草原に映える紫色のドレスの広がりから視線を外してそろりとクラドを見上げると、遠くを見ると銀にも見えるその瞳が紫色を映していて……けれどその表情は険しいわけでもないのにどこか苦々しさを感じさせた。  前国王 と紹介されて一番に感じたのは「小柄な」だった。  義兄であるクルオスが虎獣人の中でも特に大柄な方だと言うこともあるのだろうけれど、それを引いても前国王はずいぶんと小柄な体格だ。  顔立ちもクルオスとはまったく違い、まるで文官の代表のような優男風の外見で威圧感は一切なかった。 「ネクト・イネリア・ラ・レラ・シルルだ、久しぶりだね」 「ご無沙汰しております、陛下」  クラドに倣って最上敬礼を取って頭を下げると、すぐに「頭を上げなさい」と穏やかな声が告げる。 「子供を抱いて前傾の姿勢を取ると辛いだろう」  声と同じく穏やかな笑顔のまま、オレの方へと近付いてきて腕の中のヒロを見遣った。

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