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 それは一秒にも満たないような長さだった筈なのに、白い光は世界のすべてを力ずくで押さえつけて黙らせたかのような荒々しさだった。 「な   」  なに?  と口に出して起き上がろうとする俺の上から、小さな体がゆっくりと起き上がる。 「御無事でしょうか?」 「  ぇ、はい」  体の端々はまだ先程の音に揺すられたせいか微かに震えていて、耳は理解できないほどの音量のためかわんわんとした音がこだましているように聞こえてはいたが、あれほどの衝撃だった割には被害は軽い方だ。  それも、母が一瞬早く耳を押さえてくれたからだろう。 「……ありがとうございます」  一拍遅れて母は「なによりです」と返事を返してくれたが……  その姿に違和感を覚えると同時に、俺を庇ったために自分自身の耳を庇うことができなかったのだと思い至って、さっと血の気が下がった。  母のぴんと立った耳は、見た目は変化はない。 「耳っ!聞こえますか⁉︎」  母の視線が口元に移るのを感じて、唇の動きを読んでいるのだと言うことが分かり、ぐっと息が詰まる。 「大丈夫です、直に聞こえるようになりますので」 「っ  今すぐ屋敷に戻ってください!」  そう怒鳴る俺の言葉を、母は視線を逸らすことで聞こえなかったことにしたらしく、なんの返事も返さないまま森の方を見遣ってた。 「何が起きたのかは分かりませんが、そんな状態で戦うのは危険です!瘴気は俺が  」 「辺りの瘴気は先程の一撃で祓われたようですね」 「はら ?」 「先程の光は、ミロク様の浄化の光でございます」  耳が聞こえないせいか母の目はいつも以上に鋭い眼光で慎重に森を睨みつけている。 「じょ  ?いや、そんな。冗談でしょう?」  浄化 と言えば、ポロポロと零れるように光が零れて、やがてそれが水のように広がり散り、雨のように降り注ぐ。  神の力は染み渡る水のように、慈雨の雫のように柔らかで優しいのものはずだ。 「コリン=ボサ神の力の顕現の仕方は巫女様方の資質に依ると聞き及んでおります」 「巫女の力は人を傷つけるものではないでしょう⁉」  未だに耳の奥に残る轟音の残滓に顔をしかめそうになりながら、辺りの気配を窺って母の言葉の通りだと知る。 「お言葉の通りでございます。ただそれによってもたらされる副次的なものに関しましてはその限りではございません」 「…………」  なるほど。  かすがが現れるまでは歴代随一の神の寵愛を得ていたと言うのに、早々に引退を望まれたのはこう言うことだったのか……  どんなに強力でも自軍を巻き込むような力の使い方をされてはたまったものではない。 「今の内に閣下は陛下の元へお戻りください。私は兵と連絡を取り状況を把握して参ります」 「いえ、母上がお戻りください。まだ耳が聞こえていないでしょう?話を聞ける俺の方が早い」  母は煙水晶の瞳をじっとこちらに向けると、何か言おうと口を開きかけてやめてしまった。  諦めたように頷き、「それではお願いします」と頭を下げる。

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