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もし、今ここを襲った魔人の目的が巫女を食べて栄養にするためなのだとするなら、危険なのは当代の巫女であるかすが兄さんも同じことだ。
栄養に差があるのかないのか なんて、今考えるべきではないことばかりが頭に浮かんで、食べられる存在になることなんて思ってもみなかったことを言われて血の気が引くのを感じた。
オレですらそうだと言うのに、自身であるミロクはどれほどの恐ろしさを感じているのか と、掛ける言葉を探しながら顔を上げる。けれど、そこにあったのは怯えを欠片も見せずに、木箱を積んである隅を睨みつける姿だった。
「城にいる限りかすがは平気だ。当座問題は俺達の方だ」
こめかみが動いて、奥歯を噛み締めたのかぎり と言う音だけが聞こえてくる。
「ロニフ姐さんに万が一があるとは思えねぇが とりあえず……」
ミロクは苛立ちを隠さないまま端に積み上げられている木箱の方に向かって行くと、取っ組み合うようにそれに手を伸ばして力を込め始める。
先程まで唸っていたと言うのに、急に訳のわからない行動をし始めたミロクに目を白黒させていると、オレの気配を察したのかはっとしてこちらを振り返った。
「あっ 訳わかんねぇよな。すまねぇ、この奥に抜け道があってよ」
「抜け道?」
「ああ、確かこの角だったはず……」
そう言うとミロクが力を入れたのか、ぐ と唸り声のような声が低く零れる。
渾身の力を込めてその木箱を動かそうとしているのはわかるのだけれど、ミロクが幾ら力を込めてもわずかにずれて小さな軋みを上げるばかりだ。
オレよりもはるかに体格も良いミロクが動かそうとして動かないに焦れたように、「くそっ」と短い声を上げて荒く溜め息を吐く。
「……万が一があった時はこの抜け道から逃げろ、ロニフ姐さんかクラドが見つけてくれるだろう」
「ミロク様は?」
「あいつらの目的は俺だからな、一緒に行くわけにはいかねぇだろ。それに俺は…… 」
続ける言葉は逡巡のためか出てこず、彷徨う視線は何かを探しているようだった。
「 ……俺は、まぁ、ほら 異界から来た奴は王に嫁ぐのが掟とかいろいろあっけど、なんだかんだ、まぁ連れ合いになっちまったし」
木箱の縁を爪で削るように撫でた後、白い歯を見せながら盛大に苦笑する。
「男なら最後まで責任取ってやらんとだろ?」
そう言うとミロクはまた木箱に手をかけて体重を乗せるようにして動かそうとした。
「くっそ、いくら隠すためっつって、こんなの置いてたら使えねぇだろっ」
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