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 腕の中のヒロがそんなミロクを心配してか、「うーうー」と唸ってそちらに手を伸ばしている。 「………… くそっ」  閉じられた扉に視線を遣るとミロクはいらつきを隠さないまま悪態を吐き、諦めたようにヒロの手を取った。くすぐるようにヒロの掌に触れ、やはり飲み込み切れないのか盛大な溜息を吐いて顔をしかめた。 「あーっ くっそっ!」 「う?」  ミロクの怒鳴り声に、オレは思わず身構えてしまうけれどヒロはきょとんとして首を傾げただけだった。  つぶらな黒い瞳でじぃっとミロクを見詰めた後、懸命に手を伸ばしながら「うっうっ」と何かを訴えるように声を上げている。  バタバタと振り回される腕に眉を八の字にしたミロクが小さく苦笑した。 「あー……すまんな、坊主」  蹴り上げられた脛がまだ痛むのか、ミロクは足を擦りながらヒロに謝るともう一度ため息交じりに扉の方を見る。  その横顔は外に出るのを諦めてはいない内心をありありと表してはいたけれど、苦虫を噛み潰したようでもあってここから出ることの難しさをオレに伝えた。  こちらから見ると、ただ扉を閉められただけのように見えるけれど…… 「開かねぇんだろうなぁ」  呻く声は陛下がオレ達を守るためにここを完全に閉じ切ったことを伝えてくる。 「あ……あの、ま 魔人がきたら ど  」  どうなるんですか?の言葉は喉に張り付いてなかなか出てきてはくれなかった。けれどオレの様子で言葉の先を察したのか、ミロクは唇を引き結んで固い表情で振り返った。  ざっくばらんでおおらかなイメージが形を潜めて、オレを見る目は険しい。 「魔人 は、瘴気や魔物を率いて人を襲って  」  腕に巻きつく触手のねっとりとした感触と、動いているのに体温を持たない感覚を思い出して自然と身が震える。 「それから、……巫女を食うんだ」  食う? 「瘴気や魔物は巫女に弱いが、魔人にとっては滋養になるんだと」 「じ……?」  問いかけ直そうとしてそれがどれだけ配慮のない発言かに気づき、慌てて視線を床に落とすことで言葉を堪えると、そんなオレに小さな苦笑が零された。 「突然訳のわかんねぇまま連れてこられた挙句が食糧なんてぞっとしないよな」 「そ、ん  だって、  」 「そんな顔すんな。幸い、魔人が食うのは巫女だけって話だから、お前が齧られることはねぇから安心しろ」 「そんな!安心なんてっだってっ  じゃ、じゃあ……かすが兄さんも?」

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