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「ど どうし   」 「たぶん、魔人……だろうな」  その音を聞いただけで無意識にぶるりと体が震えるのは、それだけあの森でも経験が鮮明かつ恐ろしかったからだ。  鈍色の体、  鈍い金色の瞳、  蠢く触手……  絡んでくるあの細長いミミズのようなものの感触は,いまだにふとした瞬間に蘇っては嫌悪感を起こさせる。  人を襲い、辱め、死に至らしめる……  そんな存在を率いる生き物。 「  っ」 「お前と坊主は地下に入って絶対に扉を開けるな!いいな!」  大工仕事を率先してするだけあって力強い腕に押すように促されると、抵抗らしい抵抗もできないまま地下へと押し込まれてしまう。  乱暴そうで、けれどヒロに接する際にはこちらが驚くほどの丁寧さを見せていた手が問答無用で背を押す姿に、胸の内がひやりとするような嫌悪感と恐ろしさの混じったものに満たされるようで…… 「静かにしてろ   っ」  扉を閉めながら振り返ろうとしたミロクがびくりと肩を震わせて呻くように首を振るのが見えた。 「──── 中に戻れ」  先程ミロクがオレにしたように、陛下がミロクを押し戻して地下へと押し込もうとしているようだったけれど、その手を振り払うミロクには地下に戻る気はないようだ。 「お前が一番中に入らねぇとやべぇだろうがっ!」  そう言うミロクの腕を陛下が掴み直すと、今度は振り払おうとしてできないようで二人の間にまた別の緊張状態が生まれたようだった。  オレからしてみたら逞しい の一言に尽きるミロクの肩の筋肉が動こうとしているのが分かるのに、それを押し留める陛下は何事もないように涼し気のままで…… 「私は外でお前達を守らねばならん」 「っ  国の頭がんなことしてどうすんだ!」 「退いた王と新たな王ではどちらを優先させるかは明白だろう」  顎をしゃくられて二人の視線が腕の中のヒロに集まる。 「ふざけんな!かすががいるんだから俺だっていらね   っ!」  それでも外に出ようとしたミロクの唇が塞がれたのは一瞬のことで、 「私が、お前を守りたいのだ」 「だ   」 「それに、お前では相手にならんよ」  ふぃ と逸らされた青い瞳がギラリと光る。  苛立ったようにパシリと尾が鳴った瞬間、小さな呻き声と共にミロクの体がぐらりと傾いで階段の上に崩れ落ち、その隙を逃さずに素早い動きでバタン と扉が閉められてしまう。 「蹴  っ  きったねぇぞっ!レクトっ‼︎」  足を押さえてうずくまるミロクの声は、痛みのためか微かに鼻にかかるように聞こえる。 「脛!大丈夫ですか⁉︎」 「  っああ、本気でやられたら骨までいくしな」  それでも呻いて動けないところを見ると、余程蹴られた脛が痛いらしい。

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