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ぶつかるように木箱に背を預けて、ぽっかり口の開いた入り口を見上げる。
「な な、 に」
「おい!こっちに来てヒロを受け取れ!逃げろ!」
ガチ と歯を鳴らしながらミロクを振り返ると、オレが木箱にぶつかったせいで木箱が動いたのか隠し通路の扉がきちんと開かなくなったようだった。
オレよりも幾分がっしりとしたミロクではその隙間を通ることができないらしく、内側から扉を押し返そうとしているが、赤ん坊を抱っこしていてはうまく力が入らないようだ。
「ヒロっ ヒロ!」
もう明かりなんて考えていられない。
今オレがしなきゃいけないのはヒロを逃がすことで……
「 ────っ」
ソレ が、意識をこちらに向けたのがどうしてだかわかってしまった。
視線に質量なんて無いはずなのに、オレを捉えた視線は重苦しく、執拗で、昏く、粘度を持った糸のようだ。
「ぁ 」
駆け寄ろうとした方に顔を向けると、小さくて愛らしいヒロの泣き顔が見えて……
間に合わないって、分かった。
ソレ が、そこまで来ていて、扉を開けてヒロと一緒に逃げるのは、無理だって……
足から火傷をした時のような鋭い寒気と悪寒が走る。
あの森で見た、アレ だって……
「 ぁ 」
骨の芯まで冷えて行くような、雪の中に置いて行かれて寂しさで死んでしまうような、あの時の感覚が這い上がるように体を駆け上がって、あんな思いをヒロには経験させたくないって……
だって、大好きなクラドとの間に出来た、宝物なんだから。
「 ────っ」
かすが兄さんは泣くだろうし、クラドはきっと怒るだろう。
いや、きっと二人ともオレを許してはくれない。
でもいくら冷静に考えることができたとしても、この状況ならオレはやっぱりこれを選択したと思う。
「 ────ミロク様、ヒロのこと、よろしくお願いします」
隙間から叫んだミロクの言葉をうまく聞き取れなかったけど、きっと「やめろ」とかそう言った言葉だったんだと思う。
さいわいにも木箱に置いた手に力を込めると、オレでもそれを動かすことができた。
木箱に押された扉が閉まって行くにつれてヒロの泣き声が小さくなって行くのと同時に、オレの体に鈍色の細い触手が巻き付いて……
その触手の隙間からは人間の物ではない金色の瞳がこちらを見詰めていた。
◆ ◆ ◆
蹴り上げるようにして兄に食ってかかろうとしたところをエルに寸でで止められる。
「どう言うことだっ!」
兄に届かなかった代わりにエルの胸倉を掴み上げると、俺の目を見るのが躊躇われたのかエルはふいと視線を下げてしまった。
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