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 地を這うような重苦しい沈黙が、先程兄がオレに告げた言葉が覆らないと訴える。 『  ──── はるひを救出に向かうことはできない』  ひやりと冷たさを感じるほどの冷静さでもって告げられた言葉は無慈悲だ。 「ど  して   」  問いかけの言葉の答えはオレが一番良くわかっている。  はるひは、王族でもなければ貴族でもない。  確かに兄のかすがは異世界から召喚された巫女として貴ばれてはいるし、王の伴侶ではあるけれどもはるひ自身は何の後ろ盾もないた召喚に巻き込まれただけの只人だ。  魔人が意図を以ってミロクを襲った以上、こちらが最重要で守らなければならないのは王宮にいるかすがと、警護のために王宮に戻ってきたミロクだった。  そこに、只人のはるひは含まれない。 「 ────っ」  頭ではわかっている。  巫女を食らった魔人がかつてこの国を滅ぼしかけたことがあると言うことも、それにより王の血筋が途絶えかけたことも、分かっている。  けれど、だからと言って魔人に連れ去られたはるひをこのまま見殺しにすることに、理解が追いつかなかった。 「あいつはっ!はるひを殺さずに連れ去った……なら、まだっ ぃ、生きている……可能性もあるはず、だから  」  生きている可能性。  自分の口から出た言葉のはずなのに、自分自身が一番そのことに傷ついていた。  ぶるりと体が震えるのが止められず、その場に崩れ落ちないようにするのがやっとだった。 「今、王宮の警備を減らすことはできない」  いつもはからかいを含ませたような、上に立つ者としての威厳を備えながらも俺に対してはどこか甘やかすような光を宿していた瞳は、その青さそのままのようにひやりと冷たい。 「ミロクが襲われ、先王陛下も怪我を負われた。王宮は巫女の加護で守られているとは言え不安材料を増やすわけにはいかない」 「俺のっ  俺の隊だけでも  っ」 「お前の隊は、かのゴトゥス山脈での戦いを生き抜いた精鋭でもあり、数少ない魔人との戦闘経験のある者達だ。要とも言えるお前達が抜けるのを許すわけにはいかない。ましてやお前は今やゴトゥスの英雄だ、お前ひとりがいるのといないのとではどれほどの士気に関わるかわかるか?」  は と喘ぐように息を吸うもうまく肺の中に酸素が入り込まず、目が回るような気がして壁に手を突く。  ただただ、はるひと結ばれたくて行った行為の結果が、壁となる日が来るなんて思ってもみなかった。

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