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「何  を、言って  」  オレ自身の肌もそうだったけれど、それよりも青年の肌の方が酷かった。  白い肌に無数にある触手が絡みついた痕は、小さな子供がペンを持って思うがままに落書きをしたのだと言われても納得してしまいそうなほどだ。  オレの足にある黒いシミどころではない。 「そ、それより、君、の……手当を……」  少しでも動ける内に、かすが兄さんが聖別した薬を……  ……さわ  それはわずかに前髪を揺らしただけだった。  けれどその存在を無視することができる人間はきっとこの世界にはいない。  ちかちか と銀の光が煌めいて、それがほどけて風になる。  それは優しく馴染む慈雨のようなかすが兄さんの力とはまた違った見た目をしていたけれど、その根底にあるのはこの世界を造りたもうたコリン=ボサから巫女に与えられた奇跡の力だ。  間近で見続けていたオレが、それを見間違えるはずがない。  ミロクのものともまた違った風の形をとるそれが、しゅるしゅると青年の体に巻き付いて黒いシミを撫で上げ……そうすると幾ら擦っても消えない触手の痕跡が、サラサラと砂粒のようになって溶けて消えてしまった。  神からの奇跡の体現。  巫女だけに与えられた力。  万人を救う慈愛の光。 「も、もしかして…………せ……先代、巫女、さま? ですか?」  驚きのあまりはっきりと出せなかった言葉を、彼は……先代巫女のエステスは聞き取ったようだった。  心から微笑めば万人を魅了するかのような華やかな顔立ちを歪めて、目と口を弧にして嬉しそうに笑う。 「初めまして、当代男巫女のかすが」  いきなり兄のことを出されて、なぜエステスがここにいるのか、魔人と交わっていたのか、そんな疑問は吹っ飛んで素直に「は?」と言う声が漏れてしまった。  エステスにはそれが意外だったらしくて、弧を描いていた目が丸くなる。  そうすると少し幼くなったような雰囲気がして、そう言えばオレと大きな年齢差はなかったんじゃなかったかなって言うことを思い出させた。 「オレっ……オレは、当代巫女様の弟です!」  叫んだ声はオレが思うよりもエステスに衝撃を与えたらしい。 「そ、そんなっ そんな見え見えの嘘を言ったって騙されないからな!」  頭上から怒鳴りつけてくる声は間違えたことによる恥ずかしさなのか…… 「なん  っいやっお前がなんだって関係ないっ! どちらにせよお前は今、死に向かっている」  落ち着きを取り戻そうとしたのか、肩で大きく呼吸をしてからできるだけ冷静な様子を繕ってみせるエステスはそう言うと再び指を足に向けてきた。

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