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「この足から君の体はどんどん変色していって、体温は下がるのに熱が出で、辛い思いをしながらじわじわ死んで、後には塵も残らなくなる」  一気に言われた言葉は自分がかつて途中まで体験した出来事だ。  あの時はまだシミは全身に広がってはいなかった、けれどそれでもオレの意識はなくなったし、かすが兄さんに助けてもらってからもずいぶんと長いことベッドから起き上がることができなかった。  それを考えると、瘴気に襲われて全身を真っ黒に染めて亡くなった人々は、どれほど苦しかったのだろうか?  助かったオレでは推し量れない苦痛を思うと、鼻の奥がつんと痛む。 「先代男巫女のエステス様、不躾なこととは承知しておりますが、どうかその慈悲を私にもお恵みくださいませんか?」  今のこの状況はさっぱりだったが、この黒いシミをつけたままにしておくと体力を奪われて死んでしまうのだから、目の前にそれをどうにかできる人がいるならそれに縋るしかない。 「王都に戻りましたら、我が夫、クラド・リオプス・ラ・ロニフが最上の礼をいたします、どうか   」  両手が拘束されているせいで礼を取ることはできなかったが、その分わずかでも……と頭を下げた。  けれど、そんなオレの後頭部に投げかけられたのは鼻で笑うような嘲笑だった。 「   ぇ」  なまじかすが兄さんが率先して人々の治療に遠征にと走り回っているのを見ているせいか、巫女とはそう言うものだと思っていた。  品行方正にして人々の規範となり、その奇跡の力が必要となった場合は惜しみなく分け与える。  巫女は、そう言う行動をとる人なんだって…… 「治すわけないでしょ?」  そうはっきりと告げられた時、この人は一体何を言っているんだろう……とぽかんと口を開けてしまった。 「貴方はこのままここで触手の慰み者になりながら、徐々に黒化していって死ぬんだよ」 「な、何をおっしゃっているのか……私は、……私がなぜそんなことを?」  かすが兄さんのように聖人とまではいかないけれど、それでも普段の生活で殺人はもちろん盗みをしたこともなければ誰かを謗るようなことを言ったこともない生活は心がけていた。  だから初対面の人間に「死ぬ」と言われる理由を思いつくことができない。 「君が  」  言葉は途切れて、エステスの視線が後方の魔人へと移る。  エステスに離れられて魔人は萎れたようにうずくまり、それからピクリともしていない様子だ。 「君がかすがでもかすがでなくてもどちらでもいい。君はここで死ぬ」  

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