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見下ろしてくる冷やかな氷の蒼はオレを本当に憎く思っているようで、原因の分からないオレには何と返していいのかわからない。
ただ……かすが兄さんだって故意に人の恨みを買うような人じゃないってわかっているだけに、ここで引き下がることができなかった。
「オ っ私も兄もっ貴男に恨みを買うようなことは……」
「力を使うなら使えばいいよ。その度に汚して、力が尽きるまで繰り返してあげる」
何の抑揚もなく言い放つ姿は生気を感じ取れないほどで、人形のようで人と会話をしているとは思えない。
「神に会いに行ってもいいけど、そうしたら魔物に犯させるよ? 腐った精液を腹の中にぶちまけられたいなら止めないけど」
「なん っ私が何をしたって言うんですか⁉︎ こんなことをされるようなことは……」
「何も」
絹糸のような金髪が頭の揺れに従ってさらりと動く。
「は……?」
「何もされてはいないよ」
弧すらも描かなくなった表情は本当に人形だ。
綺麗で、飾っておくだけの、そんな人形。
「でも、ぼくのすべてを奪うから」
そう訳の分からないことを告げて、エステスはオレの存在がなかったかのように背を向けて魔人の方へと歩いて行った。
爪先の黒色がジワリと存在感を放つ。
見つめている時は何もないように思えるのに少し目を離したら広がっている……ように見えて、オレは瞬きをするのも恐ろしくて息を詰めて足を見つめ続ける。
「っ……」
ともすれば、視界が滲みそうになって……慌てて目を瞬いて首を振った。
ヒロ達を庇った際に殺されるんだと思っていた覚悟が無駄になったのはどこか肩透かしを食らったような、そんな安堵をもたらしもしたけれど、それでも今のこの訳の分からない状況がいいと言うわけではなくて。
幾ら考えても、オレやかすが兄さんがエステスに何をしたかがわからない。
身に覚えのない恨みで受けるにはあまりにもな事態に、縋るようにクラド達の顔を思い出す。
「 ヒロ、クラド様 兄さん……っクラド さ 」
ミロクに託したヒロは無事だっただろうか?
あの時に吹き飛ばされたロニフは?
クラドは……?
オレが馬鹿な判断をしたと、怒っているかもしれない。
「 ヒロ……っ クラド様っ」
じわじわと冷たさが駆け上がってくるようで、悲鳴のようにでた声は泣いたように鼻にかかった声だった。
「 ──── グ、らど 」
思わず反射的に引き攣るような悲鳴が出る。
オレから数メートル先、あの魔人はあれ以来うずくまったままピクリとも動かなくて、闇に溶け込んだかのように気配も消していたからか余計にその声が聞こえたことが恐ろしかった。
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