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どうやら出口らしい場所から差し込む赤い光は夕焼けだとばかり思っていたのだけれど、よくよく見ればそれは朝焼けだ。
見事な朝焼けは夕日と見間違えるほどだったけれど、それでも駆逐されていく夜の帳の淡い色はごまかしようがない。
「ここ どこ ⁉」
は と吐き出した息は白くこそならなかったけれど、呼吸の方が温かいのだと教える。
気温がよくわからなかったのは洞窟の中にいたからだろうか? ここは暮らしていた王都より幾分も冬が早いようだった。
見下ろす限り続く針葉樹の森と連なる突き出た山頂。
やや精彩を欠いたその色彩はもう秋すら手放そうとしているのをはっきりと物語っていた。
「 ────っ とにかく、逃げなきゃ!」
サンダル状の靴だが編み上げで足首まであるのが幸いだった と、洞窟を離れて少しでも通れそうなところを見つけてそこに向かう。
本来なら頂上に上るのがいいのかもしれなかったけれど、捜索隊が出されているかどうかはわからないし、この山を調べてもらえるとは限らないから下に降りようと決めて歩き出す。
山は斜面がきつくて、何度も足を滑らせそうになって慌てて傍らの木にしがみつくを繰り返す。
こんな調子では全然離れられないじゃないかと怒りが湧きそうになったが、よくかすが兄さんが背中をさすりながら「怒った方が負けだから、な?」って言ってくれた時のことを思い出して唇を噛んだ。
王宮では理不尽なことが多かった。
こちらの常識がいっさいわからないせいで陰で笑われるなんてしょっちゅうで、その理不尽さに気づく年になる頃にかすが兄さんがそうやって宥めてくれていたのだけれど、今思えば一番怒りたいのはその言葉を言ったかすが兄さん自身だったと思う。
突然向こうの世界から言葉も通じない世界に無理やり連れてこられて、しかも世の人を救うために瘴気や魔物を浄化しろって言われて、王様と結婚しなくちゃならないとかもあって……
オレはいつもかすが兄さんに励まされていたけれど、本人はどうだったんだろう? 愚痴一つ聞かなかったことに今更ながらに気づいて思わず足を止めた。
「……帰ったら、聞いてみよう」
そう口に出す。
「帰ったら、兄さんといっぱい話して、もっと一緒にいるようにして、ヒロとももっと遊んで、もっと一緒にいられるようにして、それから、クラド様とももっといろんな話をして、それから、もっと……抱き締めてもらって、それから……それから……ロカシと、マテルと、それから……」
ミロクにももう一度会いたいし、不器用に話をしてくれたロニフとも話をしたかった。
「……クラド様の髪も整えてなかったな」
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