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大小の花が咲き誇ったように膜に飛び散った赤い血に……
頭を殴りつけられたような衝撃を受ける。
息が止まりそうなほどのそれは、今までで経験したことのないような強いものだった。
「はるひっ!」
渾身の力を込めて長剣を撫で上げるようにして膜を切……
「っ⁉︎」
弾かれた勢いにざっと足元が滑る。
傷一つついていないその膜は、俺を馬鹿にするかのようにぐじゅぐじゅと蠕動を繰り返し……表面に飛び散ったはるひの血を体内へと取り込んだ。
「……っ」
血に触れてまみれた部分がまるで意思を持っているかのようにぶるぶると震えて見せ、それが喜びの表現なのだと思い至った時は怒りで目の前が真っ赤になりそうだった。
「ク……クラドさ、ま……」
「はるひ!」
声は怯えていたが途切れるほどのものではない。命の終いを表すような声音でないことに感じた安堵と共に、魔人へのどうしようもない怒りで長剣を振りかぶって叩きつけた。
魔人の対処にはどうすればいいのかわかっていたはずなのに、血が上った頭ではそれを止めることができない。
ぐじゅぐじゅと動くそれは見た目通りとらえどころのない感触をしていて、砂袋を切りつけたかのような重い感触にぐっと奥歯を噛んだ。
「はぁ゛、る゛ひぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛っ」
破鐘の声で咆哮を上げると、地面に伏したままだった魔人の体がうずくまるように丸くなる。
いや……
それはまるで羽化する前の繭のようだと感じた。
「ク ラド……っさ、 」
ざっと触手が縮まって、持ち主の魔人を覆うようにびっちりとその体に張り付くと動きを止めてしまう。
何かが起こるかのような嫌な予感に、エステスに捕まったままのはるひの方へと駆け出す。
ナイフが赤い!
そして……細い右の手からぽたぽたと溢れ出るものは……!
「エステスっ! 貴様っ! 許さんぞ! はるひを傷つけてっ八つ裂きにしてやる!」
腹から出した怒鳴り声に魔人に注視していたエステスははっと怯んだようだった。
反射的に体が跳ねてしまったからか、掴んでいたナイフがかつんと落ちて地面を転がる。
「あっ……あ、」
俺を見て恐怖心を覚えたようだ、さっと青い顔になると引き結んだ口を歪めて「 ぃ さ ま」と小さく言葉を漏らす。
怯えると先ほどまでの睨みつける気配も消えてしまい、生き物はもうそうなってしまったらただただ捕食される側に回るしかないのが掟だ。
蹴り上げるようにしてはるひに手を伸ばした瞬間、圧迫感に襲われてまず最初に伸ばした左手が薙ぎ払われた。
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