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弾き飛ばされた腕で抵抗するよりはその勢いのまま体を反転させ、更にそれを振りかぶる力に変える。
一瞬早くとらえたものは……
「触手⁉︎」
さっき魔人に覆いかぶさるようにして収縮をしたそれだ。
振り下ろした剣先もそれに弾かれるようにして返され、俺は引き倒されないように後ずさった。
それを表現するなら、発芽した……とでも言うとしっくりきたのかもしれない。
けれど発芽と言う明るい言葉を使うにはあまりにもそれはグロテスクだったし、暗い陰の気配を纏っていた。
「や……やめてっ!」
上がった声ははるひのものだ。
懸命にエステスの腕を振り払おうとしているようだったが、片手に怪我を負っているせいか細身のエステスの腕を振り払えないようだった。
駆け寄ろうとした俺よりも早く、渾身の力を込めて暴れるはるひの腕に触手が絡みつく。
「ゃ っ! こないで!」
まるでその触手に鈎針でもついているかのように、はるひの腕に絡んだ触手ははがれようとはしない。
紙のように顔色を無くしたはるひが暴れてみせるも、わずかにエステスがよろめいたぐらいだった。けれど……それよりも目を引いたのは触手の動きだ、ぐじゅ とはるひの腕に巻き付いたかと思うと全体を震わせ、そして蠕動を繰り返す。
それは……まるで、水に飢えた旅人がオアシスに辿り着いたかのような……
ぴちゃり と音が耳を打ち、触手がはるひの傷口から滴っている血を舐めているのだと確信したのは、落とされたナイフにも触手が伸びて血を啜り始めた時だ。
その幾筋もの触手が絡みついて行く様は神の救いを求めて手を伸ばす亡者のようで、頭のどこかがぶちんと鈍い音を立てたのが聞こえた。
「はるひに触れるなぁっ!」
本来ならば、魔人の討伐方法は聖別された火薬で熱傷を与えてからそこを削ぐように切りつけ、再生できないように更にもう一度聖別された火薬で焼くと言う手順を踏まなくてはならない。
かつての文献と、この山での魔人との戦いから学んだことだったけれど、今の俺にはそれに倣う行動がとれなかった。
渓谷に落とされた時だろう、荷物をその際に無くしてしまっていて大部分の火薬を失ってしまって……俺の手持ちはすぐに使えるようにとベルトの鞄に入れておいた頼りない数個だけだ。
これでは今、この魔人を撃退するには心もとなくて……
「 っ!」
効かないと承知で触手を切り落とすように長剣を叩きつけた。
細いものは離れたけれど、それでもはるひの腕を飲み込もうとしている触手はその動きを止めず……
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