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「寂しいって」  そんなの、考えなくてもわかることだった。  ヒロは甘えっ子で、好奇心いっぱいに辺りに興味を示すけれどそれでもオレやクラドがいなければすぐに探しに来て、しばらく離れないくらいの寂しがり屋だ。  わかってる。  十二分にわかってる。  だって、オレはヒロの親なんだから。  だからこそ余計に、ヒロの父を、自分の伴侶を見捨てるような姿は見せたくない。 「それでもオレは行きますっクラド様がオレを助けに来たように、オレもクラド様を助けます! 守ってもらうだけじゃなくて、オレも守れる……そんな関係でいたいから」  言葉を言い募ろうとしたかすが兄さんを振り切るように、宿の外へと飛び出す。  辺りは警備はいても村人が見えないからか、終末の近い退廃感の漂う寂れた村があるだけだった。  クラドのいた方向は……と山を睨むも、人間の能力では、山を見たところでそこにいる小さな生き物の判別まではできなかった。  この山のどこかに、クラドがいる。  見渡すと視界の届かない奥にまで山が連なり、山のその奥にも更に山がそびえたっているのが見えた。  幾重も繰り返される重厚な獣の牙のような山脈は、見ただけで身をすくませてしまいそうになるほどおどろおどろしく、かつのしかかるような存在感を放っている。 「待ちなさい! はるひは中に! ここは私が…………っ」  オレを止めに飛び出してきたかすが兄さんの様子がおかしいことに気がついた。  中途半端な個所で切れてしまった言葉の先をかき消すために、違う話をし始めるいい機会だと「どうしたんですか?」と尋ねる。  かすが兄さんの瞳は美しい銀色で、それが時に鏡のように周りの景色を映すのが綺麗で、オレはついいつもの癖で覗き込むように首を傾げた。  黒い。  黒い筋が鏡面のような瞳に幾筋も闇色の痕跡を残す。 「え?」  思わず口を突いて出たのは間抜けな言葉で……  まるで銀色の夜空に黒い星が流れ落ちているかの様子は、幻想的ではあったけれど不気味でもあった。   「    っ! 避難をっ!」  腹の底から出された声はいつもの鈴を転がしたような美しいものではなく、生々しくも貪欲に生きる人間性を垣間見せた。 「巫女様⁉︎」 「瘴気だっ!」  兵に短い言葉で告げると、兵はかすが兄さんの視線の先を見て悲鳴を零して飛び上がる。  その状態になってやっと、オレは何が起こったのかわかり……そろりと首を向けた先の光景を見て希望とか夢とかが踏みつぶされた感覚を知った。  それはまるで巻き上がる竜巻のように山の中腹から吹きあがった巨大な瘴気だった。  いや、それは瘴気と言うよりはあの魔人の触手が巨大化したと言ってもいい。

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