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 その大きさはこれだけ距離が離れていると言うのに、ずるりと動く音を伝えてくるほどだ。  呆然としたオレの手をかすが兄さんが引いてくれなければ、オレはそのままその化け物がここに来るまで立ち尽くしていたかもしれない。  かつていた世界では、大きくなった敵に対抗するために主人公達はロボットに乗って戦ってはいたけれど、この世界にはそんな技術は存在しないし、あれはフィクションの世界のものだ。 「じゃあ  ────」  ────じゃあ、この世界で、あんなに大きな物を相手に、どう戦えと?  思わず真っ白になった頭では何も考えることができないままで、かすが兄さんに馬車に乗せられそうになってやっと我に返った。 「……っ! オレは残ります!」 「残るのは私だよ、……当代巫女である私が残るべきだ」 「オレはっ……オレを、愛する人が命を懸けて戦っている時に逃げる卑怯者にしないでください!『にーに!』」  叫んだオレのはっとした表情を見て、かすが兄さんはもう一度ゴトゥス山脈の方へと顔を向けた。  ザワ と山の木々全体が震えたような気がして、思わず目を擦る。  けれど目を凝らしたその先で、明らかに風に嬲られてではない動きで木々がざわりざわりと左右に動いていた。  山の木々が意思を持って一致団結しようとしているかのように、その震えは次々と広まっていき……やがて、まるでゴトゥス山脈自体が一つの生き物かのように呼吸をして膨れ上がっているかのように見えた。   「あれは……? 山が……」 「あれは、魔人が呼び寄せた瘴気や魔物達の動きだろう。……吹き溜まりに集まることがないように、いろいろしてあったんだけど全部無駄になってしまったか」  そう言うかすが兄さんは憎々し気に山を睨んでいるのに顔色は悪く、今にも倒れてしまいそうだ。 「  計画は崩れたな」  混乱と、どうすることもできない無力さを抱えながら二人で息を詰めていると、頭上からそう場違いなほど呑気な声が降り注いだ。 「ふむ。ミロク、帰る準備を。ロニフ不在の今、危険は犯せん」 「そんなことねぇ! クラド達がやってくれるに……」  と言って、前国王がいたバルコニーに飛び出してきたミロクは、手すりに飛びつきながら言葉を途切れさせる。  ミロクの、それが正常な反応だと胸中で頷いた。幾ら威勢のいいことを言っても、現状あのサイズの触手と渡り合い、かつゴトゥス山脈を動かすかのような瘴気や魔物を退治する術なんて思いつきもしない。  パク……と開いた口が言葉を発することなく閉じられて、難しそうに顔に皺を寄せてしまう。

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