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 もう、世界がはるひを巫女と認めてしまった。  ごまかしようがない程の偉業を成し遂げてしまったし、同時にそれは多くの人間に目撃されてしまっている。  この後、はるひを隠し続けることは無理だろう。  この国には、巫女は王、もしくは王族のものと婚姻を結ぶ。  ……けれど、俺はもうすでに王族から名を消した人間だ、今後の話し合い……話を聞いてもらえるのかはわからないが、それに応じてもらえるのなら対策のしようもあるだろうが、最悪な場合問答無用ではるひを奪われてしまうかもしれない。 「もう……この世では会えないと覚悟をしていたのに、今度は生き延びたから引き離されるのか?」  ヒロのことを考えるならば、大公の息子と言うよりは国王の第二夫人の子として育った方が後ろ盾として強固だと言うのは重々わかっている。  だからと言って、それを諾々と飲み込めるかと言うわけではない。  一年離れ、やっと親子三人の生活に馴染み始めた矢先なのだから……  なのにはるひとヒロ、二人を兄に譲らなければならないと考えたら胸の奥から昏い感情が噴き出す気がした。  逃げてしまうか?  一瞬、恥知らずにもそんな考えが浮かびはしたが、俺自身もだがはるひもヒロも逃亡するには目立ちすぎる外見をしている。  黒い毛皮も、只人も、そして神の似姿を持っていることもすべてを隠して逃げるのはあまりにも危険だ。 「  はるひ」 「 ん…………クラド様?」  小さく呻いて目を開いた後、はるひは俺の顔をじっくりと見てから確認するように名を呼んでくるから、安心させるためにベッドの端に腰を下ろして細い手を握り締めた。  伝わる体温はひんやりとしていて、俺は自分の体温がすべてはるひに移ればいいのにと少し力を込める。 「クラド様、だ」 「ああ」 「……オレ……ここ、王城ですよね?」  黒髪を梳きながら頷くとはるひはほっとした表情を浮かべて、目の端に綺麗な雫を浮かべた。 「か、帰ってこれた  っ! 帰って……っ   」  言葉が切れて鼻声になり……しゃくりが言葉を途切れさせる。  縋るように伸ばされた腕を引いて抱きしめると、わっと火が付いたように泣き始めた。  昔から大人しくて、何事も身の内で考えて考えて飲み込んでしまう質のはるひはこんな様子になるのは珍しいことだった。  力いっぱいしがみつかれ、顔を歪めて泣きつくはるひに俺ができることは抱きしめ返して気の済むまで泣かせるくらいだ。  慌ただしく王城に帰り着いた途端に寝込んでしまって、はるひの身に何が起こったのかをゆっくり聞くこともできなかった、気を張っていたのだろうゴトゥスでは何が起こったのか話す素振りもなければ、そのことでくよくよと悩んでいる素振を見せることもなかった。

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