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第5話(マイク)

「さて、帰るか」 クリスマスシーズンはいつもより来店数が多く閉店作業が押した。 売り上げ台帳と現金を金庫へ仕舞うと花屋のシャッターを閉める。 スティーブからI’ll be with you soon.とメッセージが来ていたからそろそろ帰って来る頃だろう。 「寒!」 12月のニューヨークは夜にもなると更に冷える。 外は薄っすら雪も積もっている。 外階段へ回り2階の自宅へ急ごうとした時、フワッと風が吹き抜けた。 白い雪が舞い上がる。 そして耳元で囁く様な声が聞こえた。 『It's coming soon』 確かに聞こえた。 女の声?誰? もうすぐ? どういう事? 驚いて固まっていると後ろからフワッと抱きしめられた。 「こんな所に居たら風邪ひくよ」 スティーブだ。 温かな体温、優しい声、フワッと香る彼の匂い。 「お帰り。俺も今、店閉めたとこ」 「お疲れ様」 後頭部にキスされた。 唇に欲しくて振り返ってみたら同じ事考えてたスティーブから深いキス。 「マイク、続きは後で。本当に風邪ひくよ」 2人で手を繋いで階段を上がるとドアの前に人が倒れていた。 「え?!」 体格から男の様だ。 「マイク、下がって」 スティーブは倒れた男に近づく。 「ブライアン?」 スティーブが驚いて抱き起す。 ブライアンの顔には痣や血が付いている。 「大丈夫か?どうした?!誰にやられた?!」   「ゔっ、、、」 「医療班を呼ぶ」 「やめろ、、、WIAは信用出来ない」 「でも重症じゃないか」 「お前ら以外、信用出来ないからここに来た」 「、、、わかった、兎に角、中へ運ぼう。マイク鍵を開けてくれ」 「わ、分かった」 俺は慌てて鍵を開ける。 リビングのソファーまでスティーブがブライアンを運んだ。 傷は顔だけじゃなく身体中にあるらしい。 「マイク、お湯を沸かしてくれる?」 「分かった!ほ、他には何かある?」 「清潔なタオルも頼む。傷を見てみよう」 いつも不敵な笑みを浮かべているブライアンは苦しそうに息をしている。 「刀傷?かなり深いぞ」 「早すぎて、、、ジャンプが間に合わなかったんだ」 「誰だ?誰にやられた?」 「分からない、、、」 「医者が必要だ」 「誰も信用出来ない」 「スイーツ博士を呼ぶ。彼は信用出来る」 「何故?」 「僕の勘だよ」 「お前に任せる」 ブライアンはそのまま目を閉じた。 俺はタオルをスティーブに渡すと、湯を沸かしにキッチンに向かう。 「マイク、ここにスイーツ博士を呼んでもいいかな?」 確か以前、WIAで見かけた美しい男性医師だ。 「いいよ。俺たちじゃ何も出来ないし」 ブライアンには何度も助けられた。 俺じゃ何も出来ないのが悔しい。

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