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第6話(スティーブ)
ブライアンの傷を見て、胸騒ぎがした。
寸分の躊躇いの無い鋭い切り傷。
WIAでもブライアンの戦闘力は最高レベルのレベル5。
それにネオヒューマンズのジャンパーという瞬間移動能力もある。
その彼をあそこまで追い詰めたのは一体誰だ?
カサドールにこれ程までに戦闘能力の高いハンターが居ただろうか?
「スティーブ、血が、、、血がまた!止まらない!」
ブライアンの腕の傷をテーピングしていると、止血の為ブライアンの脇腹をタオルで押さえていたマイクが焦る。
その時、ドアベルが鳴った。
ライリー•スイーツ博士だ。
わずか20分で駆け付けてくれた。
「ライリー、勤務外にありがとう」
ライリーは大きな医療用キッドを抱えている。
「スティーブの頼みだから仕方ないでしょ」
ライリーはブライアンに近づくとすぐに処置を始めた。
「バーンズさん、変わります」
マイクと変わり傷の様子を確認する。
「左脇腹の傷が一番出血してるね。少し縫わないと無理かな」
清潔なシートをブライアンの体の下に滑り込ませ
服をハサミで裁断すると、ライリーは手を簡単に消毒し点滴を始めた。
「スティーブ、ちょっとここを抑えててもらえる?」
「ああ、分かった」
僕に圧迫止血を変わるとライリーは心電図、血圧計、パルスオキシメーター、呼気炭酸ガスモニターを素早く身体に取り付ける。
リビングのテーブルに広げた医療キッドには、清潔ガーゼ、止血用鑷子、止血鉗子、電気メス縫合セット(持針器,縫合針,縫合糸)、エピネフリンなどが並んでいる。
「傷はそう深く無いから局所麻酔と縫合で何とかなりそうだよ。まずは出血を止めないと」
ライリーは30分程で処置を終えた。
僕が思った通り良い医者だ。
「で、深刻な事態?自宅まで呼び出したって事は秘密にしなきゃいけないって事?」
「ああ、内密にして欲しい」
「分かった。北京から戻って来たらニューヨーク支部で一番高いコーヒー奢ってもらうからね」
「了解」
いつも明るいライリー。
少し前は何かに落ち込んでいるみたいだったが。
「あと、エージェント•フォスターにはコーヒー奢って貰うぐらいじゃ足りないって伝えといて」
「あはは、了解」
「バイタルも安定してるし、僕はもう行くね。容体が急変したら連絡して。痛み止めは置いてくから目が覚めたら飲ませてあげて」
「本当にありがとう、ライリー」
「また来週、スティーブ。
バーンズさん、お邪魔しました。ではまた」
「スイーツ博士、ありがとうございました」
ライリーが帰るとマイクと2人でキッチンに移動する。
「何だか疲れたね」
マイクはキッチンの椅子へ座るとぐったりした様子だ。
「そうだね」
明日から僕は北京行き。
この家にマイクとブライアンを残して。
こんな事態なのに嫉妬心が抑えられない。
ブライアンは怪我人だし、僕らへ助けを求めて来た。追い返すつもりは無い。
でも、、、
自分をコントロール出来ない。
「マイク」
僕は立ち上がるとマイクを抱き上げキッチンテーブルに座らせた。
「スティーブ?」
「したい」
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