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第10話(スティーブ)
マイクの前から逃げ出した。
「最低だな」
恋人を置き去りにしてシャワールームに逃げるなんて。
マイクと出会って、僕は初めて知った。
このドロドロとした醜い感情だ。
嫉妬、執着、不安、恐れ。
無理矢理抱こうとするなんて。
こんなにも愛している一番大切にしたい人を。
このコントロール出来ない感情の嵐が何度も何度も僕に襲ってくる。
「愛したいだけなんだ」
マイクを誰にも渡したくない。
冷たいシャワーを浴びながら頭を冷やす。
自分が思っている以上にプロポーズを保留されている事が堪えているのかもしれない。
「話し合うべき、、、かな」
マイクがプロポーズを保留にした理由は聞かなかった。
いや、聞けなかった。
マイクと家族になりたいなんて、僕の我儘だった?
冷たいシャワーから出て服を着る。
バスルームのドアを開けるとドンッと何かにぶつかった。
「いっ!た!」
「マイク?!大丈夫?」
ドアの前に座り込んだマイクの後頭部に思い切りぶつけてしまった。
「大丈夫」
「ごめん、腫れないといいけど」
屈んでマイクの後頭部にそっと触れる。
「スティーブ、冷えてる」
マイクはギュッと僕を抱きしめて温もりを分けてくれた。
「ここで待ってたの?」
「俺、言葉が上手くなくて」
マイクは僕を抱きしめる腕に力を込めた。
「そんな事ないよ」
優しく抱き返す。
「愛してるんだ、スティーブ」
「僕も心から君を愛してる」
大丈夫、僕はちゃんと愛されてる。
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