30 / 45

第28話(トム)

北京支部内の小さな個室に案内されやっと休憩だ。北京はもう夜。すっかり時差ボケだな。 「ハニー」 「はい、トム様」 ハニーのオペレーションマトリックスは本社メインサーバーにあるが、腕時計型のスマートウォッチでダイレクトアクセスし持ち歩く様にしている。 「ニューヨークは今何時かな?」 中国とニューヨークでは13時間程の時差があるはずだ。 「ニューヨークは現在AM9:20です」 「そうか、じゃあウチの寝坊すけはまだ熟睡中だな」 子猫の様に広いベッドの端で背中を丸めて眠るカイトを思い出す。 「じゃあ、いい。次はこの北京支部だ。どのぐらい建物内部をスキャン出来たかな?」 「駐機場を含め全体の約62%です。こちらの6階は既にX線スキャンを終えました」 「ok。出来る限り情報収集しておいてくれ」 僕はまだWIAを信用していない。 情報は常に収集しておく事。 ビジネスの鉄則だ。 そして情報こそ自分を一番守ってくれる。 今や守るものは自分や会社だけじゃない。 カイトだ。何よりも彼を守りたい。 こんなにも他人に心惹かれる事があっただろうか? 今までの恋愛は何だったんだとこの歳で思うなんて。 しかも、男性で19歳。 何度も辞めておけと自分を説得してみたが無理だった。 僕はカイトの為なら何だって出来る。 それがどんなに汚い事でも。 どんなに危険な事でも。

ともだちにシェアしよう!