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第34話(スティーブ)

煙台港からチャーターした船で崆峒島という小さな島へ向かう途中で霧に包まれた。 エージェント•神龍が言った通りネオヒューマンズのミストの力だろう。 ミストは霧とミラージュという幻影の二つの能力を持っていると聞いている。 数十センチ先も見えない霧が突然晴れたと思ったら昔住んでいたルビーの家に居た。 1人リビングのソファーに座って混乱しているとキッチンから良い匂いが漂う。 立ち上がって、キッチンに誰か居るのか確かめようとして視界が低い事に気づいた。 自分の姿が、、、子供になってる? どういう事だ?! 「あら、スティーブ、もうお腹が空いたの?」 若い女性がキッチンから顔を出す。 彼女は見た事がある。 動く姿は初めてだけど。 その女性はルビーが僕の出生の秘密を隠す為に偽造した「交通事故で死んだ母」の写真で見た女性だ。 「ママの所にいらっしゃい」 笑顔で手招きされる。 ずっと幼い頃から親の愛情には飢えていた。 真実を知るまでは、確かに「交通事故で死んだ両親」に会いたいと願っていたはずだ。 自分が人造人間で、試験管から生まれたっていう真実を聞かされるまでは。 「あなたは母親じゃない」 僕はソファーから降りて玄関のドアを開ける。 そこはマイクの家のリビングだった。 「スティーブお帰り」 「マイク?!また幻影?」 「何言ってるの?」 目の前のマイクにそっと触れる。 温かい感触、肌の匂い。 「これは幻影だ」 「何言ってるの?俺だよ?確かめる?」 マイクが背伸びをして首に腕を絡める。 「スティーブ、キスして確かめて」 マイクの甘えたい時の顔だ。 普段は明るくさっぱりした性格のマイクが、たまに自分から甘えてくれる。 「マイク愛してる」 幻影だと分かっていても、唇に触れたくて堪らなかった。 「俺も愛してる、スティーブ」 深くキスをして、唇を離す。名残惜しい。 「こっち」 マイクが寝室へ手を引く。 ベッドに向かおうとした時、反対から手を掴まれた。 「本当に男はチョロい。死にたくなきゃ、ソレに付いて行かない事」 エージェント•紅牡丹が「ソレ」を指差す。 「え?」 マイクだと思っていたモノは霧だ。 不気味に目や口の位置に穴が開いている。 「こっちよ」 手を引かれ付いて行くとすぐに霧が晴れた。 「これで全員揃った」 船のデッキには全員が集まっていた。

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