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第36話(トム)
エージェント•紅牡丹のお陰でミストの霧を無事全員が潜り抜けた。
「なぜ、君は幻影に騙されない?」
「私は何故皆んながあんな霧に騙されるかが分からない」
紅牡丹は呆れた様な顔だ。
「ミストの能力は一部の超現実主義者、リアリストには効かないらしいですよ。騙されない人はWIAでも数人しか居ないらしいです」
エージェント•神龍がフォローしてくれた。
「リアリストか、、、僕は自分がリアリストだと思っていたが違ったらしい」
カイトの幻影に騙されてホイホイ付いて行きそうだったからね。
霧を抜けると小さな島の波止場に着いた。
船を係留すると島に上陸する。
手付かずの自然というより少し荒れた島だ。
「皆さんこちらへ」
エージェント•神龍が先頭に立ち森の中へ入る。
「ついに預言者と対面か、スミス長官から聞いて以来ずっと興味があったんだ、念願叶ったよ」
ウィルは嬉しそうだ。
「それは良かった。僕は早く仕事を終わらせて帰りたいよ」
幻影だったがカイトを見て早く帰りたくなっている。
20分程、道なき道を進むと突然、石造りの神殿が現れた。
龍が彫刻された年代物の遺跡の様だ。
「この先は、僕から離れない様に。迷子になっても見つけられないかもしれない」
エージェント•神龍は服の袖を捲る。
腕には虹色に輝く鱗が見えた。
そのまま太極拳の様な動きで華麗に舞うと、風が彼の動きに合わせて強く巻き上がる。
両手を大きく天に突き上げると遺跡の巨大な石が勝手に動き始めた。
「す、凄いな」
つい先月まで特殊な能力は自分だけだと思って生きて来た僕には衝撃の光景だ。
石は複雑に動き組み合わさり、形をどんどん変えて最後に龍を模った石像が守る大きな扉が開いた。
「こちらです」
エージェント•神龍の目は白目が無くなり爬虫類を思わせる垂直に伸びた水晶体が光っている。
「ここから先は、僕らの常識は通用しない世界です」
暗い石造りの階段を一列に下っていたかと思うと、突然足元の石段が動き始めた。
「お、落ちるぞ」
「大丈夫、落ちません」
次の瞬間、目の前が開けた。
極彩色の空間だ。天も地も無い。僕は浮いているのか、落ちているのか登っているのかも分からない。
ここは?宇宙?
星の様に無数の小さな光が輝く。暗闇、深い青、鮮やかな紅。
「こ、ここはどこなんだ?」
息は出来る。酸素はあるらしい。重力は?あるのか無いのかも分からない。なんせ、どっちが上かも分からない。ただ、何故か何も無い空間を歩けている。
「ここは、時空のポケットです」
「時空のポケット?!」
「平行宇宙と平行宇宙の境界線にある小さな穴とでも言えば?」
「平行宇宙?!」
「君は一体何なんだ?」
「僕は龍の末裔です。この穴で暮らしている龍の」
「り、龍?!」
「そう、だから僕もエージェント•ワイルドと同じでネオヒューマンズではありません」
「ほら、僕なんて可愛いものでしょ?」
エージェント•ワイルドが笑う。
流石に僕のキャパを超えている。
「このような穴は世界中にいくつかあります。WIAではスペースポケットと呼ばれています。最初に発見されたのがこの崆峒島のポケットです」
エージェント•神龍に付いて前に進む。
何も無い空間が無限に広がって見えていたが急に目の前に木造の中国式建造物が現れた。
「こちらへどうぞ」
中に案内されるとスミス長官が待ち構えていた。
「待ちくたびれたよ」
ついに、預言者と対面。流石の僕も緊張している。
「預言者はこの先だ」
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