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第5話
「あの、僕はどうすれば」
「すぐに出る。おまえも着いてこい」
「え、でも、」
「たった今、特殊回線から通信が入りました」
一人の黒服が、デバイスをルークへと差し出す。
画面に表示されていたのは、アルバラには意味が分からない文字列だった。きっと何かを記号化しているのだろう。ルークは理解したのか、その画面を険しく見つめながらデバイスを受け取る。
「……おまえから連絡を寄越すとは、なかなか珍しいじゃないか」
挨拶もなく、開口一番から挑発的な声を出す。
アルバラはなんだか聞いてはいけないことのような気がして、なんとなく一歩後ろに下がった。
『そこに、アルバラが居るだろう』
呼ばれて、アルバラが弾かれたように顔を上げた。
「……さあ、知らない名だな」
『とぼけるな。私直属の影が証言している。——アルバラを出せ。話がしたい』
ルークの目がちらりとアルバラに向けられる。
アルバラは真っ青になって、小刻みに頭を振っていた。話したくないということなのだろう。
「そうか、この男は『アルバラ』という名か。おまえが焦っているところを見ると、よほどの重要人物と見える」
デバイスの向こう側では、男が小さく舌を鳴らす。
『アルバラ。返事はなくても良い、話だけ聞いてくれ』
アルバラが聞きやすいようにと、ルークはデバイスをそちらに傾けた。アルバラは肩を大きく揺らして、怯えたような目をデバイスに向けている。
『きみときみの母親を守るために、私に力を貸してほしい。あまり時間をかけられないから、出来るだけ早めに戻ってくれ』
「……なるほどな、いよいよ内乱か。俺にそれをバラすとは度胸がある」
『悠長なことも言っていられないぞ。国王も、貴様がアルバラをさらったことは知っているだろう。もともと貴様は国王にとっては邪魔な存在だ。これをネタに一掃されるかもな』
「ふん。老いぼれに何ができる」
『国の機動力を甘く見ないことだな』
「その機動力に挑んでいるおまえの言葉は、ずいぶんと説得力があるな」
『言っていろ』
吐き捨てるような言葉を最後に、通信は終わった。
アルバラには何の話かは分からない。離宮で世界を閉ざされていたアルバラには内乱なんてことも分からないし、男が自分をどうしたいのかも理解が出来なかった。
「……おまえは何者だ。どうしてこいつがおまえに助けを求めている?」
ルークの当然の疑問に、アルバラは緩やかに頭を振る。
「分かりません。僕はずっと離宮で暮らしていて……」
「逃げなければと言っていたのはこいつからか」
「違います! ……離宮に知らない人たちが入ってきたんです。母が僕を隠してくれてなんとか見つかりませんでしたが……その人たちから逃げていたんです。まだ居るかもしれないから、王宮には戻れません」
「…………なるほどな」
そもそも、離宮に住むような存在であるということに驚きを隠せない。
——もしかしたら自分は、各方面にとってとんでもなく有効な「駒」を手に入れたのではないだろうか。
(おかしな男だとは思ったが……なかなか使えそうだな。しばらくは側に置いておくか)
とはいえ、アルバラはまだルークにもまったく慣れていない。今も「自分はどうすれば」と聞いたということは、出ていくつもりであるということだ。
「行くぞ」
ひとまずルークは、アルバラの腕を掴んで部屋を出た。
「ど、どこに行くんですか」
「聞いていただろう、内乱が起きる。俺は関係ないんでな、高みの見物だ」
ルークはアルバラよりも身長が高く、歩幅も違う。そのくせ今は大股で早歩きをするものだから、アルバラは着いていくのに必死だった。
小走りなんてものではない。結構本気で走ってやっと追いつけるほどである。
「でも僕は、」
アルバラの言葉が最後まで吐き出されるより早く、ルークはアルバラを抱きしめると、近くの部屋に転がり込んだ。
「わ!」
「全員応戦しろ!」
扉が開いて丸見えの部屋の外、その廊下では、黒服が何者かと撃ち合っているのが見える。
ガン! ガン! と貫くような音が響き、銃撃戦が繰り広げられていた。
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