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第7話

 海に入るとすぐ、大量の泡に包まれた。  深く深く沈み込んで、ルークはひたすらアルバラを探す。  落下中、最初はアルバラも上に向いていたから、ルークと目があっていた。しかし途中からは微動だにせず頭から落ちていたから、もしかしたら気を失ったのかもしれない。そんな状態で海に投げ出されたならどうなるのか。ましてや、ただの海ではなく、アーリア海溝である。この海に何人も沈めてきたルークだからこそ、ここの海洋生物の危険性は一番分かっているつもりである。 (くそ……あいつが泳げるわけがない……)  車に乗ったこともなかったアルバラのことだ。泳げるはずがない。それならば早く助けなければ……。  水中でひたすら探していると、遠目にアルバラらしき人影が見えた。しかしその奥には巨大な海洋生物が、アルバラを狙ってぐんぐんと近づいている。  ルークはそちらに向かいながら、隠し持っていた拳銃を引き抜いた。  海洋生物よりも先にアルバラの元にたどり着いたルークは、大きく口を開けた海洋生物に銃を構えた。  かなうわけがない。分かってはいても、このまま大人しく食われてやるつもりもない。  しかしもちろん逃げ切れなかった。海は海洋生物のテリトリーだ。相手の得意な場所に居て、普段地上で生活をしている人間が太刀打ちできるはずがないのだ。  銃を構えながら海面に上昇していたルークは、一口でのみ込まれてしまった。    *  ——アル。あなたはとっても特別な子。絶対に外に出てはダメよ。  アルバラの母はいつもアルバラを優しく抱きしめて、そんなことを言っていた。最初は「どうして」と聞いていたのだけど、母からの明確な答えはない。  アルバラの母は、王妃であるにもかかわらずいつも離宮に引きこもっている。公務はアルバラの母よりも先に懐妊した側妃が務めているが、そんな身勝手をしても「王妃」であるということは変わらないらしい。  アルバラはいつも不思議だった。どうして父である国王が無理に連れ出しに来ないのかも、どうして母が引きこもっているのかも、どうしてアルバラに「外に出てはダメ」と言うのかも、何もかも分からなかった。  ——今日も絵本を読んであげる。お母様が作った、とっても楽しいお話よ。  アルバラの母は寂しそうに笑う人だ。  とても優しいけれど、いつも何かに怯えている。  アルバラはそんな顔を見るたびに切なくなるのだけど、母が絶対に何も言わないからアルバラも何もできなくて、いつももどかしい思いを持て余していた。

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