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第8話

「目が覚めたか」  薄ぼんやりとした視界に、揺らぐ赤が映る。パチパチと弾ける音を聞いて、ようやくそれが火であると気がついた。  周囲は薄暗い。遠くからは波の音と潮の香りが漂い、ここが浜であることもなんとなく分かる。  アルバラが気怠い体を起こすと、自身にかけられていたシャツがはらりと落ちた。尻の下には葉の感触があり、どうやら気を遣って葉っぱのベッドを用意してくれたらしい。 「ここは……」 「知らん」  ——尻の感触?  少し前の自身の思考に動きを止めると、アルバラはようやく、冷静に自身の体を見下ろした。 「わ、わあ! なな、なんで僕裸なんですか!?」  慌ててシャツで体を隠す。白い脚は隠しきれないけれど、混乱しているために構ってもいられない。 「服が濡れたからな」 「あなたは穿いてるじゃないですか!」 「俺は慣れてる」  とはいえ、ルークは上裸である。それまで着ていたシャツは今アルバラの手元にあるために、アルバラに気を遣ってくれたということが分かってしまえば、責めることも出来そうにない。  それ以上は何も言えなくて、アルバラは困惑しながらも口を閉じた。 「俺たちはまったく悪運が強い。アーリア海溝に落ちて、海洋生物に運ばれてここに来た」 「……アーリア海溝?」 「なんだ、知らないのか」  ルークの切れ長の目が、アルバラを静かに映す。 「アーリア海溝の海洋生物は獰猛だ。人間も船も関係がない。浮かんでいれば襲われるし、泳いでいれば食われて終わる」 「でも僕たちは……」 「だから言っただろう。俺たちは、悪運が強い」  低い声で言われて、アルバラは思わず背を伸ばす。  じっと見つめる瞳がアルバラを探っていた。それがどこか恐ろしいものに思えて、まっすぐに視線を返すことすらできそうにない。 「……ヘリでも聞いたが、おまえは何者だ」 「……えっと……」 「おまえは最初、何かに追われていただろう。いったい何から逃げていた」  アルバラが語るには気が引けて、きゅっと唇を噛む。  部外者に漏らせば、もしかしたら母に何か危害が及ぶかもしれない。母の安否が確認できるまでは何も言えなくて、アルバラただ顔を伏せた。 「国か」  ルークの一言で大きく肩が震えた。肯定も同然の反応である。 「第一王子のユーリウスからあんな連絡が入ったんだ。そう思うのも自然だろう。……離宮で暮らしていたと言っていたな。ユーリウスとはどういった関係だ」 「……——ユーリウス殿下は、異母兄です」 「……異母兄?」  黒服の報告では、国王は反乱軍への対抗材料として自身の妃を捕らえたと言っていた。ユーリウスが第一王子であるから、当然ながらユーリウスの母を捕まえたと思っていたのだが……そういえば彼自身が「きみときみの母親を救いたい」と言っていたことから、ニュアンス的に「捕らわれた」のはアルバラの母であるということなのだろう。  このタイミングで捕らわれて、かつユーリウスが動く人物であり、さらにアルバラとユーリウスの関係を考えれば、国王が捕らえたという妃とアルバラの母が同一人物である可能性が高い。 「王位継承権第一位は、ユーリウスではなくおまえか、アルバラ」  ルークの言葉に、アルバラは苦い顔で眉を寄せた。

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