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第10話
「腹の足しにもならんだろうが、それでも食ってしのげ」
「……あの……ルークさんは何を……?」
「俺は火の番をする」
「……火の……?」
木の実を食べながら、アルバラは興味深そうにルークの動きを見つめていた。
目の前で火が燃えているという状況がすでに非日常であるアルバラにとって、そこに木を放り込んで燃やす、なんて光景は物珍しい以外の何物でもない。もともと好奇心旺盛なこともあり、アルバラの目はルークに釘付けだった。
「王子様に、野営の経験は」
「……やえい?」
「ないか。そうだろうな」
「ルークさんはいつもこういったことをしているんですか?」
「知識があるだけだ」
慣れた様子で木を放る。ルークの動きに迷いはなくて、言葉が本当であることが分かった。
「くしゅッ!」
「寒いのか」
震えるアルバラの隣に、ルークが腰掛けた。アルバラは特に驚くこともなかったけれど、ルークに突然肩を抱き寄せられて目をまん丸にしている。
「わ、え、何、何ですか!?」
「寒いんだろう。ここには布団はないからな。人肌で我慢しろ」
ルークはちょうどシャツを着ていない。肌と肌が触れ合えば、そこから熱が広がるようだった。
最初は恥ずかしそうにしていたアルバラも、その熱に安堵したのかすぐにルークにもたれかかる。目尻がとろりと垂れていた。疲れているのだろう、眠気がやってきたらしい。
「もう眠いとは……単純なやつだな」
「……はい……あの……ルークさん、は……」
「なんだ」
「ルークさんは……僕を……」
続く言葉は音にならなかった。とうとう限界を迎えたようだ。規則正しい寝息が聞こえてきたから、完全に落ちてしまったのだろう。
状況に似合わない呑気な寝顔である。少しだけ幼いそれを見下ろして、ルークは軽くため息を吐く。
「……巻き込まれたのは俺か、おまえか」
体を傾けると、アルバラもしなだれかかるように共に倒れた。体勢を整えてやれば眠りやすくなったのか、ひっついているルークに数度甘えるようにすり寄って、さらに深い眠りに入る。
——たまに呼ぶ女とも、こんな距離になったことはない。ルーク自身他人に触られるのが好きではないし、そもそも他人のことを信用していないからである。
呼んだ女はその後すぐに殺していた。それほどまでに危険視しなければならないからだ。
「まったく……」
ルークが体から力を抜くと、やや乗り上げるような体勢のアルバラが離れないようにとルークを軽く抱きしめる。
ルークよりも細い腕だ。体も華奢で、分厚いルークの半分程度しかない。よく見ればまつ毛も長くて、顔も小さく整っている。桜色の唇なんてふっくらとしていて触り心地が良さそうだ。肌も白く艶やかだし、吸い付けばきっと美しい跡が残るだろう。
……なんて、いったい何を考えているのか。
眠るアルバラに見惚れていたことに気付くと、ルークはすぐに目を逸らした。相手は男で、しかもうんと年下だ。生きている世界もまったく違う。互いの立場を考えても弊害しかないだろう。
(いや、弊害を考えるのもおかしな話か)
弊害がなければなんだというのか。
ルークも珍しく疲れているのかもしれない。思考が散らばってうまくまとまらないから、変な方向に向かってしまうのだろう。
長く息を吐き出して、アルバラを引き剥がす。そうして自身だけが起き上がると、火が消えないようにと枝を数本火の中に放り投げた。
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