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第11話

 アルバラが目を覚ますと、すでに日は昇っていた。  波の音と潮の香りが届いて、昨日の出来事がすべて夢ではなかったと思い知らされる。まだぼんやりとする中で体を起こすと、アルバラは両手をぐっと伸ばした。 「はぁ……そっか、僕昨日……」  知らない男に追われて、ルークと出会って、流れでルークと行動を共にして、気がつけばヘリに乗って、気がつけばこの島に流れ着いていた。  アルバラのこれまでからは到底考えられない一日である。  起き上がったためにシャツがはだけて、潮風の冷気が直接肌に触れる。それに身震いすると、アルバラは自身を抱きしめて暖を取るように腕をさすっていた。 「っ、くしゅん!」  昨日よりも寒気が強い。体も重たい気がするし、なんだか目もかすんでいる。  アルバラは軽く頭を振ると、近くの木につられていた自身の服に手を伸ばす。さすがに一晩で乾いたようで、アルバラはさっそくそれを身に付けた。  少しパリパリしているけれど、裸よりはマシである。その感覚に浸ってすぐに、ルークの姿が見えないことに気がついた。 「……ルークさん?」  遠くに居るのかと少し歩いてみても、どこにもその姿はない。また木の実を取りに行ってくれたのだろうか。 (……僕がシャツ持っちゃってる……)  何をしてくれているにしても、ルークは今も上裸である。アルバラに気を遣ってくれたということを思えば、アルバラが服を着ているのにルークがそうではないという現実が、ひどく申し訳なく思えてきた。  そうだ、たまには自分で動いてみなければ。今のままではルークの足手まといなだけだ。アルバラだって男なのだから、シャツを届けることくらいはできる。ついでに木の実を取ってくれば、ルークも喜んでくれるのではないだろうか。  アルバラはそう思い立って、シャツを強く握り締めた。箱入りの王子様にシャツのたたみ方なんて分からない。シワになるという考えにも及ばないまましっかりと握り締めて、さっそく島の中へと踏み入れた。  島はほとんどが木で覆われている。手入れもされていないからアルバラの身長ほど高い草も生えているし、そこかしこから聞いたこともないような動物たちの声も響いている。普通であれば思わず足がすくみそうになるけれど、アルバラは外を知らないから何も思わないのか、躊躇いもなく突き進んでいた。  アルバラは基本的に離宮から出たことがなかった。視界を覆うほどの木々なんて見たこともなくて、王都とは違う新鮮な空気にもいちいち感動させられる。  目に映るすべてが目新しい。触れるすべてが初めましてだ。 「……すごい」  忙しなくあたりを見渡しながら歩んでいると、遠くからガサガサと草を強く踏む音がした。ほかに誰かが居たのかとアルバラは驚いて振り返る。  そこに居たのは野生の虎だった。しかしアルバラにそれが分かるわけもない。初めて見る大きな生き物に、目をキラキラと輝かせるばかりである。 「あの……僕の言葉、分かりますか?」  低く唸る虎に怯えることもなく、アルバラは興奮気味に話しかける。

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