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第12話

「僕、人を探しているんです。身長が高くて、黒いスラックスを穿いていて……あ、あとすごく格好良い人です」  虎はつんと顔を背けると、尻尾を揺らしてその場から立ち去ってしまった。  アルバラはまたひとりぼっちだ。それに少し落胆しながら、シャツをしっかりと握り直す。  ルークが行きそうなところと言えば、やはり木の実が多いところだろうか。アルバラにはそれは分からないのだけど、アルバラはなぜか自信満々に歩みを進めていた。  すると途中で、水の流れる音が聞こえてきた。自然に流れる水の音なんて聞く機会は今までになくて、アルバラはついそちらに釣られてしまう。  けれど。 「本当にこの島に反応はあるんだろうな」  知らない男の声がして、アルバラは思わず大きな木に身を隠した。 「間違いない。ルーク・グレイルは確かにこの島に漂着している」 「にしても……あのアーリア海溝に生身で落ちて生還できるとは思えねえけど」 「それほどの悪運でもなければ界隈では生きていけないんだろうよ」  男は二人居るようだ。川のそばに立ち止まって話し合っているらしい。  アルバラは息を潜めて、少しだけそちらを見ようと身を乗り出す。けれど一人が振り向きかけて、すぐに元の位置に戻った。 「王子は捕まえるとして……ルーク・グレイルなんて大物捕まえてどうすんだよ。国にでも売るのか?」 「まさか。国は奴が邪魔だと言っているんだぞ。売るよりも殺す方が効果的だ」 「まったく怖い男だなおまえさんは」  大きな笑い声がアルバラから離れていく。どうやらアルバラがいるところとは反対側から、島の散策を再開するようだ。 (……ルークさんを殺す……?)  たしかに聞こえた不穏な単語に、アルバラはとっさにはその場を動けなかった。 (早く知らせないと……!)  あの男たちがアルバラより先にルークを見つけてしまってからでは遅い。アルバラは男たちが完全に見えなくなったことを確認すると、すぐさま森の中を駆け出した。  どこに居るのかは分からない。それでもとにかく探すことしかできなくて、アルバラは必死にあたりを見渡す。 「ルークさ……わあ!」  足裏に何かが転がって、アルバラはあっという間にバランスを崩した。  受け身も取れないままで顔面を強打する。痛みから、アルバラは少しばかり震えていた。 「……いっ……たぁー……」  いったい何が起きたのか……確認をしようと足元を見れば、そこにはごろごろと木の実が落ちているではないか。  ルークの力になろうとアルバラが求めていた木の実たちである。ルークが拾ってきたものとはまったく見た目が違うけれど、木の実の知識なんてないアルバラにとっては大収穫だ。すぐにそれを出来るだけポケットに詰め込んで、ルークを探すべく立ち上がった。  それと同時、ガン! とどこかから銃声が響く。余韻を残して消えるそれに、アルバラはさらに足を早めた。  まさかあの男たちとルークが出会ってしまったのだろうか。この銃声は、ルークが撃たれた音なのだろうか。嫌な考えばかりが浮かんで、とにかく先を急いだのだが……。  アルバラが出たのは、知らない浜辺だった。 「……あれ? ここ……」  最初のところとは違うような、同じなような。砂浜の違いなんか分からないアルバラは、不思議そうな顔をして周囲を確認している。  すると、 「アルバラ!」  ルークの声がして、素早くそちらに振り向いた。  ルークだ。間違いない。ルークが小走りにアルバラの元に向かっていた。  涼やかなイメージがあったけれど、今は少し汗ばんでいる。思ったとおり上裸で、昨日の夜は気付かなかったけれど、その体は鍛え上げられて腹なんてうっすらと八つに割れていた。  アルバラとはまったく違う体に思わず見惚れていると、ルークはアルバラの元にやってきてすぐ、胸ぐらを掴み上げて思い切り頭突きを食らわせる。 「いっ! だ……!」 「この、能天気の馬鹿王子が!」 「何をするんですか!」  先ほど転んだ時以上の衝撃だ。むしろ傷口を抉るようなその行為に、アルバラはもう泣いてしまいそうなほどに涙をためていた。 「何をじゃない! どこに行っていた!」 「どこって……」  言われてようやく、アルバラは本来の目的を思い出す。

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