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第16話

 銃撃戦を見た後だ。持っているものがオモチャではないことくらいアルバラにも分かっている。分かっているからこそ、こんな行動に出られるのだ。  アルバラには、これしか選択肢がなかった。アルバラはもう、どうやってもこの男たちからは逃げられないだろう。アルバラが居る限りこの状況が終わらないのであれば、アルバラが消えるしかない。  安直な考えからの行動だったのだけど、男たちには効果があったようだ。真剣な表情のアルバラを前に、どちらも動こうとはしない。 「……王子、落ち着いて。俺はあなたの味方だ。国に連れて帰るよう言われている」 「国に……?」  語り始めたのは黒服だった。 「ユーリウス殿下が反乱軍の総帥であることは知っているだろう? ユーリウス殿下は、現国王が治めるあの国はもう終わったと諦めている。だからこそ反旗を翻した。……しかし国王はあなたとあなたの母君を利用するために、あなたたちを捕らえようとした。そんな状況から、義兄弟であるあなたを守りたいと呼んでいるんだ」 「そうそう。んで、俺が反乱軍の小隊長。もちろん、ユーリウス殿下の命でここに居る」  説明される言葉の意味は分かるのに、まったくわけが分からなかった。  今語られたことをすべて信じるとしても、そこにルークの味方であるはずの黒服が居るということが分からない。普通であれば、反乱軍の人間だけがこの場に居るのが正しいのではないのだろうか。  そんなアルバラの疑問を察したのか、黒服は軽く眉を上げる。 「ああ、俺のことか。俺は元から国の人間だ。ルーク・グレイルという男とその組織を消すために潜入している」 「……消す……?」 「国はルーク・グレイルが邪魔なんだよ。奴は力を持ちすぎた。やろうと思えば、奴こそ国取りに参加できるだろう。そうしないのは『気分が乗らないから』だ。分かるか。気分が乗れば、戦争が始まる」 「……そんなはず、」 「あなたは奴を知らなすぎる。奴はあなたが思うほど善良な人間ではない」  一歩、黒服が踏み出した。それに素早く反応したアルバラは、銃をしっかりと握り直す。 「近づかないでください。ぼ、僕でも、撃つことくらいできます」 「……なーんでそこまですんのかねえ。あなたが死んでもどうにもならんだろうに」  反乱軍の男は、まるで呆れたようにつぶやく。きっとアルバラに銃が扱えるとは思ってもいないのだろう。  しかしアルバラは怯まない。トリガーにひっかけた指に力を込めて、泣きそうな顔で二人を睨みつけた。 「……ぼ、僕が、消えれば、ルークさんは、困らない。ルークさんは、殺されない。だから、僕が、消えれば、」 「……は。ははは! 嘘だろう、まさかルーク・グレイルのために命を投げるのか?」 「こりゃあすげえ。いったいどうやってここまで懐かせたんだ? あんたんとこのボスは男色だったか」 「そんなわけがない。女を手配したことはある。そもそも奴は他人が好きではないし、性欲も薄い方だぞ。奴が王子を懐かせる手段に性を用いるわけがない」  黒服の嘲る言葉を最後に、アルバラはぎゅうと目を閉じた。  死ぬのは怖い。だけど、アルバラはルークには死んでほしくない。すごく怖い印象だけれど、本当は優しい人間であるともう知ってしまったのだ。  アルバラはずっとひとりぼっちだった。  母とは一緒に居たけれど、母はいつも何かに怯えて、アルバラを隠すことばかりを考えていた。だからどこかよそよそしくて、一緒に居ても心は遠く思えていた。  アルバラの人生において、まともに話をしたのはルークが初めてである。  出会いはまったく普通ではなくて、成り行きで一緒に行動をすることになっただけだけれど……それでもアルバラにとっては初めての友人であり、アルバラを守り、助けてくれた恩人でもある。  最後にたくさん誰かと話ができて楽しかった。誰かの温もりに触れられて良かった。少し恥ずかしいと思えることもあったけれど、そんな感情も初めてだったから心地が良かった。  ——出会ったのが、ルークで良かった。 (怖くない。怖くなんか……)  アルバラの指に力が入る。  最後に見たのは、二人の焦ったような表情だった。  

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