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第17話
カチン、と、軽い音が鳴る。
静まり返ったその場では、それはあまりにも大きな音だった。
(……あれ……?)
痛みがない。衝撃もない。ぎゅうと閉じていた目をおそるおそる開いていくと、先ほどとなんら変わりない状況が見えた。
「……なんで、」
「それはオモチャじゃねえぞ、アルバラ」
爆音が空を裂くと同時、アルバラが持っていた銃が弾き飛ばされた。
アルバラの手は衝撃に震える。少し麻痺しているらしい。
「い! たいっ……!」
「頭なんか撃ってたらそれ以上に痛かったな」
反乱軍の男と黒服の後ろから、ルークが悠然とやってきた。まったく焦った様子はない。その手にはアルバラが持っていたものよりも小さな銃が握られていて、アルバラの銃を弾いたのはこいつの弾丸であると分かる。
「ル、ルークさん! 逃げてください! この人たち、ルークさんを探して殺すんだって、」
「ほう。どうやるんだ、教えてみろ」
口角をつり上げると、黒服の男へと目を向ける。
黒服は少しばかり怯んだのか、一歩だけ足を引いた。しかし果敢にも銃口をルークへと向けて、焦った様子をひた隠しているようだ。
「あまり驚いていませんね」
「ああ。おまえが潜入していることは分かっていた」
「……匂わせたつもりはありませんでしたよ」
二人の会話を聞き流し、アルバラだけが次をどうすべきかと考えていた。
黒服はもう余裕気味だ。反乱軍の男は現在、幸いにもアルバラの近くにいるだけでアルバラを捕らえていないから、もう逃げられるわけがないと安心しきっているのかもしれない。アルバラが持っていた銃は、弾かれてどこかに行ってしまった。側には草木しか生えていなくて、武器になりそうなものは一つもない。
(……ルークさんが殺されちゃう……)
ルークも銃を持っているとはいえ、武装した男を二人相手にするのはさすがに不利だろう。どうすればこの状況を打破できるのか。
「どれほど警戒していても、こちらのテリトリーで行動していることに変わりはない。電波妨害はしっかりとされていたがな」
「……なるほど。泳がされていたわけですか」
「おまえから抜き取れるものは案外多かったよ」
ルークの目がちらりとアルバラに向けられた。しかしアルバラは気付かない。どうすればルークを救えるのかとそればかりで、今は武器を探すことに必死だった。
「残念ながらそこの王子様は渡せないんだ。大人しく引け」
「それは、反乱軍と対立するという意思表示か?」
反乱軍の男がアルバラの前に立つと、大きめの銃をルークに向けて構えた。
「どうとらえてもらっても構わん。聞き分けが悪いようなら、こちらも強行に出るしかない」
「……強行?」
遠くで、バラバラとローターの回る音が聞こえた。気付いた二人はすぐに振り仰いだけれど、同時に反乱軍の男が膝をつく。
「ぐっ……! ぅ、ああああ!」
膝を撃ち抜かれたらしく、おびただしい量の血液が吹き出していた。
「チッ。案外早い到着でしたね」
「俺の持っている端末が運よく生きていたようでな。……ああ、そうだ。おまえへの通信は断っていたから、俺が仲間を呼んだことに気付かなかったのか」
「なるほど。俺は最初から疑われていたと」
アルバラは恐怖に目を閉じていた。
目の前で人が撃たれた。その痛みから苦しんでいる。そんな姿を見ていられなくて、聞いていたくもなくて、耳もぎゅうと塞いでいる。
「……やけに王子に構うようですが、何か理由が?」
黒服はそれを最後に、ヘリからの銃撃に倒れた。眉間に一発、弾痕が残る。
ドサリと音を立てて倒れたけれど、アルバラはまったく気付いていない様子だった。
「……理由か……」
そんなものがあったような気もするけれど、なかったような気もする。
ルークは短く息を吐いて、アルバラへと歩み寄る。
「おい、大馬鹿王子」
しかし当然、耳も目も塞いでいるアルバラには分からない。
「おい。もう大丈夫だぞ、おい」
「王子を、どうするつもりだ」
ルークの足元では、膝を撃たれて苦しんでいる反乱軍の男が、痛みに堪える表情でルークを睨みつけていた。
「……分かっているのか……! 王子は、ユーリウス殿下が保護をしようとしている。それをさらったとなれば……殿下が、黙ってはいない」
「ではその時はどうしようか。……それこそ、おまえたちの言う戦争でもしてみるか?」
一拍間を置いて、男は悔しげに口を開く。
「どうして、そこまで……」
「こいつは本来王位継承権第一位の男で、なぜか離宮に隠されていた過去がある。そして何より、ユーリウスも国王も欲している。……利用価値が高い」
「外道が……!」
遠く聞こえていたはずのローターの音が近づいていた。アルバラはそれを感じてようやくうっすらと目を開くと、目の前に居るルークに泣きそうな顔で飛びついた。
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