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第22話

「やめてください。私がこいつと友人などと……私は仕方なく加担してやっているだけです」 「俺こそ、おまえがどうしても俺の手伝いをしたいと言うからさせてやっているだけだ」 「よく言いますね。私の治癒にどれほど救われてきたのですか」  仲が良いのか悪いのか……幼馴染だと言っていたアレスとルークは仲が良さそうだったけれど、この二人はまた少し関係が違うらしい。 「連れてまいりました」  言葉と共に、出て行った黒服が戻ってきた。その側には島で捕まえた反乱軍の男が、悔しそうに支えられて立っている。口には布をかまされて、撃たれた膝には包帯が巻かれていた。  男の目が流れるようにレグラスに向けられた。そうしてゆっくりと瞠目する。この国の人間であれば、神官長であるレグラスの存在は知っているのだろう。そんなレグラスがルークと共に居ることに驚きを隠せないようだった。 「こいつが反乱軍の一人だそうだ。ユーリウス側の情報を得られるかと連れてきた」 「リスクが高いですね。この男が発信器を持っていた場合、ここの場所がバレますよ」 「対処してある」  連れられた男はどこか縋るように、もの言いたげな瞳でアルバラを見つめる。 「……知り合いか?」  視線に気付いたルークが問いかけたけれど、アルバラは男を見つめながらも頭を振った。 「……分かりません。あの……あなたは、ユーリウス殿下が何をしようとしているかを知っていますか?」  アルバラが少しばかり身を乗り出した。  男はその問いかけに一つ頷くと、ちらりと隣の黒服へと視線を移す。口の布を外せ、とでも言いたげに、男は顎を黒服へと突き出した。 「……外してやれ。自死を選んでも無駄だ。こちらには治癒師が居る」  ルークの言葉に睨むような視線を向けると、ようやく口が解放された男は大きく息を吸い込んだ。 「王子と二人で話をさせろ」  周囲を敵に固められても、男に怯む様子はない。  嘲るような息を漏らすと、口を開いたのはレグラスだった。 「まさか、そのような条件を飲むとでも? あなたが王子に危害を加えない保証もなければ、ここから逃げ出さないという確証もありません」 「……俺は王子に危害は加えねぇ。逃げ出すつもりもねぇ。口約束しかできないが」 「……お、お母様が今どうしているか知っていますか?」  必死な声音に、男はこくりと頷いた。  アルバラはとっさにルークを振り仰ぐ。困惑しているような瞳だ。けれどお願いをしているようにも見える。 「……少しの時間ならば許してやろう」 「グレイル。やめておきなさい。今の状況で王子を奪われては、今度こそ国に消されますよ」 「ふん。返り討ちは得意だ、安心しろ」  ルークは立ち上がると、その大きな手をポンとアルバラの頭に乗せた。 「何かをされたら大きな声を出せ。いいか。——セーフティを外して、トリガーを引く。基本も忘れるな」  そう言って、ルークはアルバラの前に一丁の拳銃を置く。すぐにレグラスの腕を掴み上げると、やや強引にルークは部屋から出て行った。黒服たちもぞろぞろと後ろに続いて、部屋に残ったのはアルバラと男だけとなる。 「ユーリウス殿下が僕を探していますよね。あれはどうして……」 「殿下はあんたと王妃を守ろうとしている。国王は、どのような非道な手段を使ってでもあんたたちを利用するつもりだ。そうなる前にと、ユーリウス殿下が保護しようとしているだけなんだよ。……今国は大混乱だ。国王派と王子派に分かれてまともに機能していない。ユーリウス殿下は、数日でカタをつける算段を立てた」 「数日……」 「だからあんたには戻ってほしい。……今の国王がどれほど愚かで不出来な男かは知っているんだろ? 女と権力に狂ったあの男に国は任せられない。まあ、だからと言ってあんたを連れ戻して何の役に立つのかは知らねえけど……」  男はアルバラのことを知らないようだ。その好都合な展開に、先を促すようにアルバラはゆるりと頷いてみせる。 「もう気付いているかもしれねえが、殿下はあんたにご執心だ。殿下が国王になり、国がふたたび始動した時、あの人はあんたを妃に据える」 「……え、あ、でも、殿下には婚約者の方が、」 「それも国王が勝手に決めた相手だろ。何の利益にもならない相手との婚約なんて、殿下が権力を持ったと同時に覆る」  男が真剣な瞳で、アルバラを探るように見ていた。 「俺と一緒に、殿下のところに来てくれ。あんたは決して悪いようにはならない。むしろ、ルーク・グレイルの側にいた方が危険だ」 「……お、お母様は今……」 「イレーネ王妃は少々手荒に尋問中だ。王子の居場所を吐けと、ずっとそう詰められている」 「手荒に?」 「救いたいなら行こう。ユーリウス殿下なら、イレーネ王妃を救うことができる。……特別何かをしろとは言わない。殿下だってあんたのことを想ってんだから、近くに居ればそれだけで満足するだろう。イレーネ王妃を救いたいのなら、ここに居るべきじゃない」  男の言葉に、アルバラはとうとう黙り込んだ。視線を泳がせて、それはすぐに手元に落ちる。  間を置いた後、アルバラが小さく言ったのは「考えさせてください」と、それだけだった。   

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